第5話 たくさんのありがとうを。

私の目の前にはビーフシチュー、パン、そしてぶどうジュースが置かれている。

「どうぞ、食べてね」

と言われ、手を合わせる。おいしい。そして、温かい。久しぶりに笑いながら食べた。今までの事を忘れさせてくれるような日だった。

時計が9の針を指して少したった頃。由里ちゃんのお母さんが由菜ちゃんの親御さんが心配するからといってまた今度ということになった。今度と言われることが嬉しかった。すべてが嬉しかった。

「今日は本当にありがとうございました。また、遊びにきたいです!!!」

というともちろん!と返ってきた。

お辞儀をして由里ちゃん家を出る。

街灯のおかげで少し明るい。息が白い。本格的な冬が始まった。

歩いて約5分くらいだっただろうか。私の家が見えてきた。明かりがついている。玄関の扉を開けるとギーっと少し嫌な音がする。私は由里ちゃんの家とは正反対だ。小声でただいまーと言いながらリビングにつながるドアを開ける。はぁ、また喧嘩か。イヤホンを持って2階にある自分の部屋に上がる。

椅子ではなく地べたに座る。私の家は由里ちゃんの家とは全部が違う。ほんとに…全部が。幸せな家庭を見てしまった以上羨ましくなって自分の家が前よりもっと嫌になる。嫌だ、嫌、ほんとに嫌。

どうすれば、私も幸せになれるの?

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