第46話 遠征終了のお知らせ
「ソーダ! どこ行ってたんだよ、って……そいつは?」
広場に戻るとフードの集団は綺麗さっぱりいなくなっていた。商人含め誰も怪我をした様子はなかったので、とりあえず安心する。
「意識を失って倒れてたから引きずってきた。捕まえていいんだよな?」
「そりゃあ、もちろんなんだが……」
倒れたフードが他に見当たらないのは意外だけど、あの数だ。仲間が回収していったんだろうな。
ウィスたちも一線を引いているのか、人を殺すところまではやらないみたいだし。徹底的な排除に合わず見逃されている理由の一端か。
「捕まえるにしても次の仮休憩地に連れて行くのは……」
そこでヨークスがわかりやすくハッとした顔を見せ、一瞬のニヤケ面の後に真面目すぎる表情を作る。
「例えトラブルがあっても、任務を途中で投げ出すのは衛兵のやることじゃない。ここは隊のお荷物、おれとソーダが責任を持って悪党を町に連れ帰るのが最善策。任務への影響は最小限にすべきだ」
俺への誹謗中傷を欠かさずに早口でまくし立てる姿は最高に輝いていた。
他の同僚の異論もなく話は進む。野盗を運ぶために商人が馬車の荷台を整理し、空いたスペースを使わせてもらうことになった。結果的に荷物は盗まれなかったからか、快く引き受けてくれた。
まさか、一週間以上を覚悟した遠征の翌日に町へ戻れるとは。運が悪いと言われたが間違いだったな。
「いやー、ソーダさまさまだ」
馬車に乗り込んで出発するなり、ヨークスが調子よくのたまう。
「これで今日は女の子に会いに行けるな」
御者に聞こえる距離で恥ずかしい言動は避けろと。
「少し聞きたいんだが、紅盗賊団が襲ってきたときはいつも無抵抗なのか?」
「状況次第で基本的には数が正義になる。向こうも同じ考えだから出会えば負け試合。素直に荷物を献上だ」
「衛兵の存在価値が疑問視されそうだな」
「数が正義って言ったろ。襲われない状況作りが抑止力になる。人手不足の衛兵が死んでばかりじゃ、なり手がますます減って機能不全だ」
色々な事情があっての判断がなされているらしい。
「まあ、紅盗賊団の中にヤバいやつがいて数の有利をひっくり返されることもある。あれは視界が奪われて手も足も出なかった」
たぶん、フェルス邸でドミナが姿を消したときの暗闇攻撃だ。魔法の一種と思ったがその中でも変わり種か。
「そういえば、紅盗賊団のボスが捕まったと聞いた覚えがあるんだが」
「事情通だな」
「ヤバいやつがいるのを相手に、どうやって捕まえたんだ」
「実は本人が出頭してきたって話だ」
興味本位で聞いてみたら予想外の答えが返ってきた。
「本物か特定する前に逃げられたとかで、よくわからん結末だったみたいだぞ」
それだけだと意味がわかりにくいけど、ドミナ本人が言っていた話で印象は変わる。今回の野盗を狙った件にしろ黒幕をあぶり出す手段と考えれば納得できた。
「野盗の場合で対応に異なる点は?」
「そっちはもう命がけで、衛兵が嫌になる一番の原因だ」
野盗と盗賊、わざわざ名称がわけられているのも理由があると見える。
「ただ、衛兵崩れや冒険者崩れが多くて実力的には低いレベルでムラがあるな。そこには助かってる。なかには当然、手ごわいのもいるが」
「野盗は男の集団のイメージだったな。元冒険者も多いのか」
「いや、そのイメージは合ってる。冒険者の女社会に馴染めず嫌になる男がほとんどでな」
思い描いていた逆姫プレイは幻だった……?
「女にチヤホヤされたくて冒険者を目指すソーダには残念なお知らせか」
「俺は魔王を倒す使命を胸に冒険者になるつもりだ。誤解するのはよしてくれ」
ヨークスと一緒にされては困る。
「ぜひとも志を忘れずに続けてほしいもんだ。多少はおだてられるし頑張れよ」
どうせ愛の祝福が気になって話しかけるのすら躊躇するだろう。甘い考えは捨ててラヴィを盾に生き残りたい。
馬車での移動は徒歩の行軍と違って、一日かからずに町へ到着する。手柄だと褒められるか任務の途中で戻って来たことで叱責を受けるか。また仮休憩地を目指せと言われたらヨークスとサボって飲みに行こう。
商人には兵舎前まで運んでもらって馬車を降りる。縄でグルグル巻き縛った野盗は目を覚ましているが、暴れる様子はなかった。
「おい、止まれ。そいつは誰だ?」
まずは門に立つ、見張りの二人組に待ったをかけられる。形ばかりだが部外者の出入りは禁止されていた。
「野盗だよ。仮休憩地で襲われて一人だけ捕まえることができた」
説明はヨークスに任せる。こんなに縛ってるんだから想像はつくと思うが、言葉で伝えるのは大事か。
「少し待っていろ」
見張りの一人が建物のほうへ走っていく。
「こいつを牢屋にぶち込んで、状況の説明やら報告書の作成で終わるのは夜になっちまうな」
ゆっくり休めるなら事務作業ぐらい、いくらでもこいだ。
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