第45話 紅盗賊団(仮)
寒さを感じて目が覚める。起き上がって周りを見渡す。天幕内にあった大量の寝袋はすでに片付けられていた。
外に出ると朝靄が出ている。馬車の数も減っていて出発済みの商人もいるようだ。
交代時間があるとはいえ、初めて体験した夜通しの見張りは眠気との戦いでかなり疲れた。何かトラブルが起こっても頭が回らなかっただろうな。
他の同僚はどこに行ったんだとあくびをすると、森の奥からちらほら歩いて来た。その中にヨークスがいたので手を上げて挨拶をする。
「起きたか。向こうに池があるから顔を洗って来い」
言われた通り、歩いて向かうと広めの池が現れた。顔を洗って眠気を覚ます。がっつりな任務だが、体力はつくし冒険者になる前の訓練にはなってるな。
広場に戻るとみんなが軽いストレッチをしていた。
「俺たちは居残り組か」
ヨークスの横に行って話しかける。
「そうだな」
全体の数が減っているため察しはついた。半分は次の仮休憩地に向かったらしい。
「今日は存分にリフレッシュをしたいな」
ストレッチに加わって、寝袋で凝り固まった身体をほぐす。
「残念なお知らせだ。一日中、周辺のモンスター退治をしなきゃならん」
何かあるとは思ってた。モンスターと戦うのは経験になるし真面目に頑張るか。
「武器を構えろ!」
突然、同僚の一人が声を上げる。何事だと周りを見るとみなが剣を抜くので、自分も続こうとしたが剣は置いたままだった。
急いで天幕に走って最後の寝袋横にある剣を持って外に出ると、フード付きのマントを着た集団が広場を囲っていた。
「この数はさすがに分が悪い……」
ヨークスがゆっくり近くに来て呟く。見える限りでも三十人はいる……? 隊の半数が出発済みで多勢に無勢なのは明らかだった。
「あの格好は紅盗賊団だ。商人には悪いが荷物さえ渡せば命は助かる」
ということは、ウィスの仲間か。あんな数で活動していたとはな。
フード集団は広場に残る馬車の荷台へ近寄る。商人はそこを離れて同僚たちに守られていた。
「敵を見間違うなよ!」
その時、森の奥から新たなフードをかぶる集団が現れる。そして、先にいた集団と剣を交わせ始めた。
「ちっ! 相手にするな! 退け!」
男の命令する声が響き渡る。いきなりの戦闘行為を前に唖然とするしかなかった。
「どうなってんだこりゃ……」
ヨークスもこの状況には戸惑っていた。それほど珍しい出来事なのか。
「ちょっと行ってくる。ソーダは待ってろ」
集団同士が入り乱れて商人たちに危険が及びそうだ。
「俺も行く」
少しは剣の扱い方を学んでいる。最低限、衛兵の役目を果たさないと。
「新人でこんな場面に遭遇するのは運が悪い証拠だ。今回は見とけって」
先輩らしいところを初めて見た気がした。ここは素直に従うか。冷静に考えると足手まといだ。
天幕の前で金属同士がぶつかる音を聞く。さっきのセリフ的に、散り散りに逃げていくのは先にいた集団か?
「どけ!」
「っ!」
近くの地面に転んだフード姿がすぐに立ち上がり向かってくる。剣を振り上げる姿に足がすくんでしまった。
剣を構えて迎え撃とうとするが……。
「おらよ!」
「ぐっ!」
横から別のフードをかぶった人物が蹴りを食らわせてくれて助かる。その際に顔がちらりと見えて、まさかと驚く。
「ったく、なんであたしが衛兵の世話を……」
「ウィスか?」
「は……?」
目の前の人物が不自然に動きを止めてこっちを見た。
「……ちょっと来い」
首根っこを掴まれて天幕の裏側、木の陰に連れて行かれてしまう。
「なんでソーダが衛兵になってんだよ……」
見間違いではなく正真正銘、ウィス本人だった。
「冒険者になる前に、衛兵になって体力をつけろとアドバイスを受けたんだ」
「……あたしが紅盗賊団の一員だって報告されると面倒なの、わかるよな?」
「いや、わざわざ報告なんてしないし」
「ほんとかよ」
「初日に仕事をさぼって飲みに行って、二日目に大遅刻をするぐらいの大型新人だからな」
「……あんた、そういうタイプだったのかよ」
ウィスが特大のため息をつく。軽口で勢いが削がれてくれて助かった。衛兵に正体を見られちゃ生かしちゃおけねえ、と襲われずに済んだな。
「ドミナにノドゥスの町までの道を新たに整備する話は聞いてるか?」
「それっぽいことは言ってたっけか」
「俺は賛成で、途中に設ける予定の休憩地点でたこ焼きを提供することになった。もちろん紅盗賊団の協力がほしい立場で、捕まえる気持ちはない」
突然のトラブルだったけど、たこ焼きについての報告もできたし結果的にはよかったな。
「で、ウィスたちが戦ってる相手は誰なんだ? 同僚は紅盗賊団だと言ってたが」
「あたしたちの真似事をやってるクソ野盗だよ。懲らしめてやろう、って話になっただけだ」
ドミナが同じようなことを指摘していたな。すでに罪をなすりつける連中がいるのか。
「ウィスちゃん、引き上げるよ」
またフードをかぶった人物が姿を見せる。この聞き覚えのある声は……ペルナ?
「その衛兵さんは?」
「ちょっとな。息のある野盗を一人、連れて来れねーか?」
「どこかにいたと思う。待ってて」
緊張のままペルナであろう人物が離れていく。
「ちょうどいい。ソーダには野盗を連れて行ってもらう」
「……なんでだ?」
「あたしたちに扮したクソがいるとわからせるためだ。誰の支援を受けて入れ知恵されてるかは理解してなくて尋問は無駄だが、野盗はほとんどが男。紅盗賊団は全てが女で馬鹿じゃねけりゃ気づく」
なるほど。ウィスたちへのヘイトを減らすにはいい策か。
「あんまし期待はしねーけどな」
「こっちでその疑問は伝えてみよう」
新人でも現場に居合わせた人間だ。色々話は聞かれるはず。
「連れてきたよ」
戻ってきたペルナが背負っていた男を地面に下ろす。
「後は任せるぜ」
最後に短く言い残し、二人は森の中へ消えていった。
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