第44話 遠征日和

「途中で隊を二つに分けながら遠征を行う」


 衛兵になって三日目。所属する隊の専用部屋にて教官の指示を受ける。


 昨日は厳しい目が向けられていたので、大人しく精一杯の優等生面をして過ごした。その結果か人手不足のせいか、出て行けとクビを宣告されはしなかった。


 せめて一週間ぐらいは耐えて、冒険者になる前のいい訓練になったとデリックさんに伝えたい。


「いつものように、ノドゥスへつながる道を警戒だ。他の隊と交代で仮休憩地に野営を張る。最近は紅盗賊団が数を増して襲ってくることが多い。野盗と違って命を奪われる心配がないからといって、手を抜くなよ」


 仮休憩地? 新人へもっと細かく説明がほしい思う反面、すぐに辞めると諦められてそうだと受け入れる。


 ただ、紅盗賊団が人を殺さずに活動するのは少し安心だ。さすがに血なまぐさいと一歩引いてしまう。数が増えている点は気になるけど。


 教官は言うだけ言って部屋を出ていく。指示を出す立場になれると楽なんだがな。そこまで続けられるかは置いといて。


 みんなが席を立って移動を始めた。俺はクビを免れた仲間のヨークスを見て追加の情報を聞くことにする。


「今回は泊まりでの仕事だ。簡単に言うと荷物を運ぶ商人へのサポートになる」


「野盗と盗賊対策か。商人自身も冒険者を雇ったりするんだろ?」


「雇っても数人だしな。どうせ襲われると腹を括って無対策なのも多い。荷物を放棄して逃げれば命は助かるしな」


 ハードな話を聞かされると衛兵の必要性が理解できる。


「仮休憩地っていうのは?」


「元は夜を過ごすための場所が自然に設けられた経緯がある。モンスターの危険性もあって、警戒するには人が多いほうがいいんだ。寝ずに何日も馬車へ乗るのは無理だからな」


「そのサポートするわけか」


「辛いのは泊まりがけの任務で、女の子がいる楽しい店に行けないことだ」


 教官に怒られても欲を貫く姿勢は見習うべきなのか。


 気になった事柄を聞くのもそこそこに、みんなに遅れて部屋を出る。準備もお任せで大きいリュックを背負わされて兵舎を後にした。


 馬車にでも乗り込んで行くのかと思いきや、徒歩で出発してげんなりする。まだ訓練の筋肉痛が続いているというのに。


 荷物は重りと同じ。置き去りを避けるために必死でついて行く。


 一列になっての行軍は明らかに目立つが、特に視線を感じず倉庫街を抜けて東門へ到着する。そのまま外に出て行軍は続いた。


 土で均された街道は平原に挟まれて見晴らしがいい。割と近くに森が見えて山が続いている。この街道が港町、ノドゥスへつながる道なら、おそらくあそこが整備予定地になるんだな。ウィスたちが暮らす集落もどこかにありそうだ。


 しばらく歩くと平地に広がる別の森に入っていく。


「ここからは一応モンスターに注意だ」


 ヨークスが横に並んで軽い調子で言う。


「デカジリツムリの相手は任せてくれ」


「そいつは無視でいいだろ。まあ、人の気配で寄って来るタイプのモンスターはこの辺りにいないし、はぐれなければ大丈夫だ」


 そろそろ脚が限界ではぐれたくなってきた。何度か馬車とすれ違いながら乗せてくれと頼みたくなる。歩く必要性を教えてもらいたいな。


 モンスターに警戒するが出てくる様子はなく、徐々に日が暮れてくる。森の中なので弱まった日の光は入ってこずに暗さが増した。


 何か照明具がほしいところだが、前方に灯りが見えてくる。街道の横が広場になっており、かがり火が各所に焚かれていた。


 何台もの馬車が止まって天幕も張られている。護衛っぽい冒険者の姿もあるし、ここが仮休憩地か。


「まずは寝るための天幕を用意。その後は五班に分かれて警戒任務だ」


「朝まで仕事か」


「朝になったら馬車を見送って隊の半分が次の仮休憩地に向かい、もう半分がもう一日待機する。翌日、先に出発した側は待機して残った側が次の仮休憩地に向かう。それを繰り返しノドゥスの町へ着けばゴールだな」


「……」


 てっきり一日で終わると思ってた。かなりきつい仕事になるな。


 荷物を下ろし天幕が張られていくのを眺める。期待薄な新人だと他の先輩方々には伝わっているらしかった。


「ソーダ、こっちだ」


 唯一、不良仲間として面倒を見てくれるヨークスに薪が積まれた場所に連れて行かれる。雨水を溜めるタルも用意され、簡単に泊まれるよう色々準備がされていた。


「これで料理用に火を起こす」


 薪を運んで距離を空けつつ五組の台を作る。三十人もいると料理だけでも大変だ。


 積んだ薪の上に鉄製の三脚を置いて水を入れた鍋を吊るす。


「食材は荷物の中にもあるけど、定期的に馬車で運んで来ててな」


 次は端っこの天幕に行くと中に木箱がいくつも並んでいた。ふたを開けるとジャガイモが大量に詰まっている。


「キャンプ気分で少しは楽しめるな」


「そう言ってられるのは初日ぐらいだ。二日三日でうんざりするぞ」


 頭の中がピンク色のヨークスと一緒にするなと言いたいが、想像は容易にできた。

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