第38話 赤髪のボス
赤い髪が目立つ少女がつまらなそうにこちらを見ている。灰色の瞳に違和感を覚えたが、左右で微妙に色合いが違うらしい。
「ドミナ様、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか」
「敬称付きで呼ばれる筋合いなんてないわよ」
確か牢屋でディリアに聞いた紅盗賊団のボスが、ドミナという名前だったな。デリックさんのピリつく雰囲気で突然の来訪なのは明らかだった。
一体どこから入ってきたんだか。ドア以外に出入り口は窓だけ。まったく気づけなかったな。
「で? 私たちの存在が支援の妨げになってるのかしら」
ウィスを通じて話が伝わり、ここに顔を見せたんだと思うが友好的には見えない。
「少しの期間、大人しく過ごしていただければ良い方向へ進展いたします」
フェルスに代わってデリックさんが対応する様子は緊張感がある。ラヴィなどは空になった皿を見つめて追加のたこ焼きを待ちわびてるし。
「まず前提として私は、町を追い出された人たちが置かれる現状は当然の成り行きだと思ってるの。だって、元々スラム街には不法に住んでたんでしょ?」
てっきり一方的に追い出されたと考えてたが、不法と聞いたら印象は変わる。とはいえその状況を放置し都合よく邪魔者扱いしたのなら、どちらに味方をするのが正しいかは難しかった。所詮は部外者か。
「私が貴族に喧嘩を売るのは単純にむかつくから。それだけの理由よ」
鼻を鳴らす姿でクセの強い人物なのがわかった。間に割って入る隙がなくて困る。
「ドミナ様のご意見は承知しましたが、我々の間で論じられている内容もお聞きください。物流を担う港町、ノドゥスへの行き来をより短縮する計画がございます。人が集まる町同士、密接さを増すことで魔王軍へ挑む足がかりの一つになると期待しております」
「勝手にすれば? ノドゥスとの間にある森を整備するつもりなら話は別だけど。集落があるのは知ってるんでしょ?」
「もちろんです。そこで暮らす皆様方には中間地点に設ける予定の、休憩所を兼ねた新しい集落へ移り住んでいただきたいと考えております」
知らぬところで大きな話が動いてたんだな。たこ焼き屋がすっかり霞んでしまった。
改めて作られる集落に住めるんだったら上等な待遇だ。生活の質が上がれば、ラヴィの言う失われた愛も多少は改善されるだろう。
「そんな美味しい立場を金に汚い貴族が手放すと思う? 私が安っぽい牢屋に入れられたのも、逃げ出すことを考慮したのかしら。本当に気に食わないわね。紅盗賊団が悪い意味で注目を集めれば得をする連中がいるもの」
そうか、今は牢屋を逃げ出した後になるんだな。何か思惑があったようだが、貴族を狙う盗賊団を野放しにして誰が得をするんだ?
「野盗を利用する貴族がいるんでしょ?」
「あー、ワニワニ団か」
そんなやつらもいたなと呟いたら睨まれてしまった。
フェルスが乗った馬車が襲われた裏に、貴族がいると考えれば納得できる点は多い。アウクシリア家は大物貴族。町の主導権を握られたくない勢力が嫌がらせに動く可能性は十分にあった。町にいつやってくるかの情報も同じ貴族だと入手は簡単に思える。
「調査は継続中ですが確定には至っておりません」
紅盗賊団を警戒する分、ワニワニ団に割く人員が減るのか。貴族が被害を訴えれば衛兵も動く必要が出てくるはずだ。となると、いよいよ盗賊行為が邪魔になってくるな。
「悪巧みをする連中はともかく、しばらくは静かにしといたほうがいいんじゃ?」
「ふーん?」
ドミナが片眉を上げて両足をテーブルにのせる。文句があるなら言ってみろとばかりに威圧的な態度だ。
ただ、短い丈のパンツとごついブーツの組み合わせで露出した生足に目が行って、感謝の気持ちを抱く。小さなマントに隠れた上半身も薄着。ベルトがいくつか巻かれており、いかつい印象もいささかあった。
「盗賊稼業は町の外で暮らす住人へ支援をするために始めたんだろ? 重い腰を上げた貴族がいるんだし話に乗れば、そもそもの問題は解決しそうだが」
反対の一派も計画が進んだら諦める気がするし。
「甘い。野盗に荷馬車を襲わせておいて、私たちに罪を被せるのが連中のやり方よ」
野盗を使うぐらいだから否定はできないか。今まで不当な手段で稼いできたつけが回るというか、自業自得な面も若干あるな。
「紅盗賊団の皆様には今後、野盗対策に携わっていただきます」
「アウクシリア家なら他の貴族抜きに単独で進められるのに、どうして誰かに任せようとするの?」
「主は調和を望んでおりますので」
「喧嘩上等の方針が変わったのかしら」
「信念は変わっておりません」
また置いてけぼりになって、デリックさんとの間でバチバチが始まった。話し合いの場を設けて俺の役目は終わったようだ。
「貴方たちが何を考えているかは理解したけど、紅盗賊団をまともな仕事に就かせたいなら妨害する連中を片付けてからね」
言うだけ言って立ち上がると、いつの間にかその横にフードをかぶる人物が佇む。
「ブラックアウト」
次の瞬間には目の前が真っ暗になって焦る。左右に顔を動かしても状況は変わらず、声を出そうとしたところで視界が戻った。
ドミナとフードの人物は消えて窓から入った風がカーテンを揺らす。隣にデリックさんは見当たらず、フェルスの側に立っていた。
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