第35話 演技派の冒険者
「実は今、故郷の料理を再現しようとしてるんだ。お礼っていうのも変だが、試作品でよければ食べてみないか?」
そろそろ本来の目的を切り出すことにする。しっかり世話になったんだ。まずは普通に楽しんでもらうか。
「面白そうだね。食べさせてもらうよ」
自然な流れで誘えたし変に疑われずに済むだろう。これでウィスを口説き落とせなかったら別のアプローチが必要になるけど、数日はふて寝をする自信があった。
時間が巻き戻るにせよ積み上げたものが崩れるのはやる気が削がれる。モチベーションの保ち方が今後の課題だな。
早速、乗合の馬車に乗って移動する。
「参考に聞きたいんだが、ディリアはどんな戦い方をするんだ?」
折角の機会、先輩冒険者に色々とご教授願おう。
「単純だよ。自分の剣を信じて戦うんだ」
「得意な技とかは?」
「注意を引くのは得意かもしれないね」
タンク系ってことなら魅力的な人材になるな。
「ちなみに、パーティは何人で活動を?」
「今は一人で頑張ってるところだよ」
あわよくば引き抜いて仲間に迎え入れようとしたが、まさかのソロ冒険者だった。
「男は魔王軍に狙われるんだろ? 一人で行動して大丈夫なのか?」
「この辺りはまだ安全だしね。でも、ソーダはしっかりパーティを組むんだよ。ぼくは慣れているからね」
慣れでどうにかなる問題とは思えない。騎士の家系と言っていたし、かなりの実力者だったり?
「回復魔法が得意な仲間がいて二人で冒険者を始める予定なんだ。たまに指導をもらうことって可能か?」
「もちろん協力するよ。ぼくも偉く語れるほど経験豊富ではないし、あまり期待されるのは困るけどね」
何度も依頼に同行してもらって、いつの間にかのパーティメンバー入りを目指すか。貴族らしいので仲間になってくれたら、きっと頼りになるはずだ。
会話をする間に鍛冶屋通りに着いて、馬車を降りる。
「あ、ちなみにダークエルフが苦手とかは……?」
「種族で人を判断するのはポリシーに反する。直接言葉を通じれば誰とだって仲良くなれるさ」
ディリアには愚問だったか。
寄り道をせずにラピスの工房へ入る。一階には誰もいなかったので階段を下りるとスパイスの香りが鼻をついた。
「とても美味しいですよ!」
「ソーダのやつ、スパイスが強すぎるのは避けたいとか言ってたよな」
「でもスパイスを使うんじゃねー。難しい注文だよ」
「少量ずつ?」
言い出しっぺがいなくても試作を続けてくれているのに感謝だな。
「すまん。遅れた」
「ソーダ! なんだかカッコよくなりましたね! あら、そちらの方は……?」
「先輩冒険者に世話になってきた」
「ディリアと呼んでほしい。ソーダに聞いた故郷の料理を食べたくてね」
「わたくしはラヴィです! すぐにたこ焼きを作りますね!」
ラヴィがお任せくださいというように鉄板を用意する。魔導具化は済んだが相変わらずコンロ型の魔導具を使っていて、無駄に間を挟んでいた。
「うげ、あんた……」
「おや、ウィスだったかな?」
「二人とも知り合いだったのか?」
驚いた顔でしらばっくれる。
「まあね。ソーダは町の外で暮らす子たちがいるのを知ってるかい?」
「聞いたことはあるな。貴族が移り住んだ経緯で、ってやつ」
「彼女もそこで暮らす一人だね」
「別に不自由はしてねーよ」
ウィスが腕を組んで鼻を鳴らす。やはり積極的に話したい内容ではなかったようだ。
「例えば店の運営に、そこの人手を借りることはできるか? ウィスの知り合いなら俺も安心だし」
「んー、まあ別にいいんだけどな。なんつーか、商人連中にはあんまり歓迎されないぜ」
「紅盗賊団の件があるからね」
「盗賊……?」
はて、なんの話だと難しい表情を作る。不審がられてないし、演技派の冒険者でやっていけるな。
「町を追い出された腹いせに、貴族相手に盗みを働くのがいるんだよ。あたしがその一員とは言わねーが」
あの戦闘能力だし町の中で自由に行動できる要因として、紅盗賊団の中で役立ってそうだ。
「貴族に届けるはずの荷を横取りされた商人は、あたしらが関わってると知れば足元を見るかもな。店を開いても仕入れで苦労するぜ」
懸念点は十分に理解できた。それを自ら伝えてくる誠意も信用できる。
「実はラヴィがアウクシリア家のお嬢様を野盗から助けて、今も仲良くしてるんだ」
手札を見せて乗ってくるかが勝負どころ。
「そりゃあ……随分と大物の貴族だな」
「完成した料理を持って開店資金を頼もうかと考えてたんだが、その時にウィスも同席するのはどうだ?」
「……」
「部外者のたわ言なのは自分でもわかってる。全てを水に流すのは難しいんだろうけど、いい機会と思って歩み寄ってみないか?」
「……あたしの一存じゃ難しい話だ」
「俺は人手と資金が用意できて店を開ければ満足だしな。利用するつもりで気軽に考えてくれ」
「気軽に、ねぇ……」
「大丈夫です!」
ラヴィが出来立てのたこ焼きをのせた皿を持ってくる。
「このたこ焼きを食べれば、みんな笑顔になりますよ!」
試作中のソースが上にかかって、見た目の完成度が高まっている。正直、かなり食欲をそそられた。
「たこ焼きというのが料理の名前なんだね」
ラヴィにフォークを渡されたディリアがたこ焼きを頬張る。熱さに驚いた表情の次は、味が気に入ったのか大きく頷いた。
「うん、すごく美味しいね。初めて食べる味だし買ってくれる人は多いと思うよ」
「美味しいのは、あたしもわかってんだよ」
ウィスも熱いのを気にせずたこ焼きを食べる。後はフェルスを納得させるだけか。
「ちょっと、ソーダ……」
奥で静かにしていたラピスに引っ張られ、耳元で囁かれた。
「なんか変な話になってない? それに、誰か連れて来るなら先に言っておいてよ」
「心配はしなくていい。上手くいけば鉄板の追加発注を頼むって話だ」
「儲け話?」
首を傾げるクーラをラピスがジト目で見る。
「はいはい、仕事だったらいくらでも引き受けるよ」
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