第33話 着々
「お待たせしました!」
たこ焼き試作会の翌日。冒険者ギルドを出てきたラヴィに手を上げる。
「どうだった?」
「お屋敷で聞いた内容とほぼ一緒でしたよ」
お願いしたのは一般的なソースの作り方を聞いてくることだ。さすがに自分の知識で作るのは難しいし、ソースとしてそのまま売ってる店がないらしいので苦肉の策だった。
ラヴィの愛嬌を武器に屋敷と酒場で調査を頼んだが、お決まりの原材料があるのは朗報か。店が仕入れを多くする分、安く買えるかもな。
「ちょっと歩こう」
「はい!」
少し話をするためにのんびり散歩する。
「そういえば聞きそびれてたけど、冒険者ギルドの酒場でみなの支払いを肩代わりした経緯って何かあるのか?」
「フェルスさんのご厚意です! わたくしが冒険者になると言ったら、先輩冒険者の方々へ挨拶代わりに酒場の代金を支払ってくれました!」
「へぇ……」
どんな過保護の仕方だよ。逆にたかられたり金持ちめと疎まれるリスクがあるのに。
小遣いはねだらなくても持たされるようだし、えらく気に入られたもんだ。そのおかげで食材を色々と試せるのはありがたいが。
「たこ焼きの話はどうだった?」
「ソーダと美味しい料理を作っていると、お話ししましたよ。食べてみたいと仰ってくださいましたね」
最終的に資金面で頼るのはフェルスだ。とりあえず、現状できる部分まで頑張って完成品を献上しよう。
「クーラとラピスのオーラに変な部分はあったか?」
今のところ不穏な空気は皆無だが、いつナイフが出てくるか不安だった。
「お二人とも愛には薄い性格だと思います」
「薄い……?」
「元々、エルフとダークエルフは種族的に性欲が薄い特徴があるんです。性欲は愛と密接につながっているので、愛の祝福による影響は小さいかもしれません」
普通に付き合う分には大丈夫と。
「エルフは長寿で合ってるよな?」
「百歳を超えるのが普通ですね」
子孫を残す必要性があまりなくて、みたいな感じか。絶対数が少ないと言ってた理由の一端だろう。
「ウィスに何か気になる点は?」
「ソーダと比べると大きな差はありますが、愛に溢れた方なのでしょう」
なんとなくわかるが、殺された経験から偏りのある愛な気はした。
町の外で暮らしているなど、ウィス本人についての情報はまだ伏せておこう。ラヴィのことだ。どうせ、向こうが話すより先に変な反応で事情を知っていると気づかれる。
今は無警戒に仲良くなってくれればいい。余計なトラブルは不要だった。
「フェルスさんも随分とオーラが柔らかくなりましたよ。ソーダと会っても不幸な結果にはならないはずです」
「……」
二回も刺されて、じゃあ安心と素直になれるかと言われたらな。まあ、ウィスと違って痛みはマシなんだ。用ができたときには会うことにするか。
「また食べに来たぜ」
食材を買い込んでラピスの工房に行くと、すでにウィスがくつろいでいた。たこ焼きの魅力に取りつかれたか。タダ飯を食べに来ただけの可能性もあるが。
「数日はソースの研究になるぞ」
ラヴィに聞いた限り、基本的には野菜を煮込んでスパイスで味を調整する作業になりそうだ。
「たこ焼きにつけなきゃソースが合うか、わからねーだろ?」
ウィスが小麦粉を用意して生地を作り始める。手順を覚えているのは心強い。
ソースは記憶の中にある味に近づけばいいんだが、ついでに生地のほうも試作を続けるか。ギリギリ引っくり返せるかどうかの柔らかさを追求しよう。
鍋に水を入れて沸かす間に野菜を準備し、そろそろ次の段階に話を進めておく。
「実は店を出したい一方で、冒険者をする予定もあるんだ」
「なんだそりゃ。店は自分でやんねーのかよ」
正直、軌道に乗るなら一生たこ焼き屋でも構わない。しかし、ラヴィがせっつくのは確実だ。無視したら刺される未来も薄っすら見えるし。案外、死んでやり直せと笑って言ったりな。
愛を取り戻せというのは結局、魔王の討伐を目指すことになるんだろう。直接対決は勘弁願いたいが、死んでも時間が巻き戻る能力は手助けに最適だった。
「元々は故郷の料理を気軽に食べたくて始めたんだ。飲食店に興味がある知り合いがいれば紹介してくれ」
「知り合い、つってもなー」
「別にウィスが店に立ってくれてもいいが。クーラとラピスは……」
「きみきみー、わたしたちに知り合いがいると思ってる?」
この町にいるエルフとダークエルフは二人だけなのか。愛の祝福が悪さをしないなら、ぜひとも仲良くなりたかった。魔法が得意なイメージがあるし、それこそパーティメンバーに迎えたい。
「ま、ちょっと心当たりがあるから話してみるか」
ウィスの前向きな発言は問題の解決に向けて一歩前進。もっと踏み込んだ話をするには別方向の攻め口が必要だな。
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