第32話 異世界たこ焼き
「作業途中にこの鉄板を使っても大丈夫か?」
「平気」
念のため本人から許可をもらって、たこ焼きの試作に移る。
「何か作るんですか?」
そういえばラヴィには説明してなかったな。
「故郷の料理を作って商売になるか試すんだ」
「おお! 美味しいものを食べれるんですね!」
冒険者ギルドの酒場で、散々飲んで食べてした後だろうに。食欲が旺盛すぎて、フェルスの世話になってないと食費で困窮するな。
「コジリツムリの下処理なんだが、ウィスは知ってるか?」
「茹でりゃ食える」
シンプル過ぎて不安になる答えだ。臭み消しに酒で茹でるとかハーブを入れるとか、それっぽいことを期待してた。
キッチンの収納を調べるとフライパンや鍋がひと通り揃っている。クーラを見ると頷かれたので自由に使おう。
「コジリツムリは沸いてから入れたほうがいいのか?」
「水のまま放り込めばいいんじゃねーの?」
語尾を上げてクエスチョンマークで返すなと。
まあ、コジリツムリのプロなんだ。言うことを信じて大きめの鍋に殻ごと入れて水で満たす。食べ過ぎて耐性がついてたら、ラヴィに解毒を頼もう。
コンロに鍋を置いて火をつけようとするが、つまみがなくて一瞬戸惑う。鉄の爪が円形に並ぶ中心は平らで、これも魔導具だったと気づく。
確か、指を鳴らした後に火がついた覚えはあるが……。
「魔導具だろ? 魔力を流せばいいんだよ」
ウィスが横で手を伸ばすと触れずに火がついた。魔力そのものを流す感覚がわからないし要練習だ。
コンロが二口あるので魚のアラを下処理して出汁を同時に取る。
「ソーダはお料理屋を開いていた経験があるんですか?」
「自分のために作るぐらいだったな」
ストレスの発散に無駄に凝った料理を下手の物好きで作っていた。最後は洗い物が心底面倒で死にたくなるんだけど。
「うげ、全部コジリツムリなのこれ……?」
準備を済ませたところへ作業を終えたラピスが顔を見せる。殻を外したコジリツムリは貝っぽいが、ボウル満杯だとさすがに気持ち悪かった。
「とりあえず五人分ずつ作って試すか」
同じスプーンを三つ用意し小麦粉と溶いた卵、出汁の配合をメモしつつ調整する。
「材料はシンプルだよなー」
ウィスが興味を引かれたように覗き込む。レシピだけ持っていかれるのは怖いが、結局は資金源が重要になる。信用優先というか、普通に美味しいと思ってもらうのが一番だ。
まずはたこ焼き用の鉄板に熱を入れて油を引く。生地を流し込みカットしたコジリツムリの中身を加えて、アイスピックに似た工具を持った。
「この町では見たことないかも」
こんな工房を持っているんだ。ラピスの感想は当てになる。珍しさはクリアで後は味の問題か。
「いい匂いがしてきましたよ!」
「ここでひっくり返せば……」
ラヴィの嗅覚に従ってピックを差し込むと、素直に回ってくれて焼き目が上になった。第一歩と考えたら中々の出来だ。
後ろから期待の視線を感じながら、ジッと待つ。
「そ、そろそろ……」
またもやラヴィのか細い声が聞こえて引っくり返すと丁度良かった。愛より食の女神を名乗ったほうが信憑性はいくらか増す気がするな。
出来上がりを皿に移し、テーブルに置く。
「たこ焼きって名前の料理だ。本来はここにソースをかけるんだが、素材の味が口に合うか教えてくれ」
「いただきます!」
「あ、焼きたては熱いから注意な」
言う前に食べたラヴィが案の定、目を見開いた。
「はふっ! ふぁ! あ、あふいでふ!」
やけど上等で食べる姿勢は嫌いじゃない。俺も一口に食べて味を確認する。
カリカリした食感の後にプリッとした噛み心地が続いたため、中身をタコと勘違いしそうになった。牢屋で食べたときとコジリツムリに差があるのは調理方法のせいか。
「んぐっ、すっごい美味しいです!」
「確かにいけるな」
ラヴィとウィスの口には合ったようで安心する。
「うん、初めて食べたけど美味しいね」
「美味しい」
クーラとラピスも好意的な感想だ。個人的にはふわふわ感がもっとほしい。コジリツムリは旨みが抜群なので、安さと合わせて中身は決まりだな。
「改善点はまだまだあるが町で売ってたら買うか?」
「絶対に買います!」
「値段次第だよなー」
「食べやすいし合間の休憩にはいいかもよ?」
「買う」
それぞれに温度差があるけど、この時点だと上々だろう。今日で配合を簡単にまとめて、明日はソース作りにチャレンジしてみたい。市販のものがあれば、たこ焼きに合うソース探しだ。
思い付きで始めたが楽しくなってきたな。
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