第31話 買い出しと顔合わせ

「おぶってやるよ」


「助かる」


 馬車を降りて、いびきをかき始めたラヴィをウィスが背負ってくれる。俺だけだと起きるまで足止めを食らってたな。


 屋台通りと似た雰囲気の道は市場になっていて、店先に天幕が張られ生鮮食品が並んでいた。野菜だけでなく生肉に生魚もあってより取り見取りで、海が近いことが想像できる。この品揃えだと港が整備されている可能性も考えられた。


 探せばタコすら売ってそうだが、なるべく安い食材を使いたい。たこ焼きといっても中身はなんでもいいんだ。


 とりあえず小麦粉は必須で、安さ重視の中身と卵、余裕があれば魚で出汁を取るくらいか。長旅上等の世界だろうし保存食の文化は発達してるはず。干し魚の削り節か魚のアラを見つけよう。


 目移りしながら物色すると山積みにされたコジリツムリが目に入り、その光景に圧倒され立ち止まってしまう。


「コジリツムリは美味いよな」


「確かに美味しいけど、って……」


 どうせ殻は外すんだ。中身へ使う分には見た目も問題ないのか。まあ、ウィスみたいな耐性がある人種ばかりだと配慮は不要だが。


「値段はどれぐらいなんだ?」


「タダみてーなもんだ」


 いや、さすがに言い過ぎでは。


「おっちゃん、コジリツムリっていくら?」


 値札が見当たらなかったので店の主人に聞いてみる。


「両手で五十ルナだよ」


 つかみ取り形式ってことか? しかも安いし、いきなり有力候補になったな。


「よし、あたしがやってやるよ」


 もう買う気満々なウィスがラヴィを下ろして、コジリツムリの山に両手を突っ込んだ。よく平気で触れるもんだ。


「よっと。どこに入れればいいんだ?」


「あんたらカゴは持ってないのかい?」


 そうか、レジ袋なんて気の利いたものがあるわけなかった。自前で用意するのが当たり前か。


「ちょっと待ってな」


 一度奥へ引っ込んだおっちゃんが木のカゴを手に戻ってきた。


「品物を買ってくれるなら百ルナで構わないよ」


「助かります」


「んじゃ、入れてくぜ」


 ウィスが両手でつかんだコジリツムリを三度もカゴへ放り込む。こんなにいるかって話だけどカゴを安く譲ってもらったし、多めに買ってもいいな。


「カゴを合わせて二百五十ルナだ」


 そろそろ節約時だが、それぐらいは余裕で支払う。今度ラヴィに追加で資金の融資を受けるか。


「ありがとうございました」


「また買いに来てくれよ」


 コジリツムリ入りのたこ焼きが上手く行けば世話になりそうだ。


「後は小麦粉と卵、魚のアラがあったら買っておきたい」


「よし、さっさと見つけて美味いもん作ろうぜ!」




 ◇




「いい加減、起きたらどうだ?」


「んえ……?」


 食材を買って馬車に乗り、鍛冶屋通りで降りてラヴィの身体を揺らす。


「ソーダさんじゃないですか。どうしました?」


「それはもういい。知り合いができたから紹介しようと思ってる」


 ウィスがいるし、オーラ云々は後で聞けばいいな。


「お知り合いというのは、そちらの方ですか?」


「ウィスだ。よろしくな!」


「ラヴィです。よろしくお願いします!」


 クーラとラピスのつもりで言ったが、この二人をつなげるのは目的の一つ。まあいいか。


「こっちだ」


「どこに行くんです?」


「行ってからのお楽しみだな」


 ラヴィはすっかり目が覚めたらしく興味津々に目を輝かせる。鍛冶屋も珍しいようで右に左に視線が忙しかった。しまいには躓いてウィスに支えられるし、やれやれだ。


 狭い道に入って井戸を越えた先で行き止まり。軽く入口をノックして中に入った。


「おお! 雰囲気がいいところですね!」


「ん? 客か、ってソーダじゃん」


 鍛冶仕事中だったラピスが顔を上げて汗を拭う。


「仲間を連れてきた」


「ダークエルフさんじゃないですか! 初めてお会いしました!」


 女神のくせにと突っ込むのは今さらか。


「あたしも会うのは初めてだな。この町で鍛冶仕事をしてるなんて知らなかったぜ」


 謎の握手を求めるラヴィに、ラピスは押されながら応じる。偏見とは遠い二人だ。事前に知らせなくても平気だった。


「料理用の食材を買ってみたんだが、クーラも作業中か?」


「もうちょっとかかるかもしんないね。でも、使う分にはコンロがあるし大丈夫でしょ」


 鉄板が未完成の場合はそうさせてもらおうと考えてた。


「わたしも終わったら行くよ!」


 ラピスと別れて階段を下りる。地下へ行くとテーブルで作業中のクーラがいた。


「エルフさんまで! ソーダ、いつの間にこんな方たちと仲良くなったんですか?!」


 誰かさんが馬鹿騒ぎをしてる最中にだな。

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