第30話 再会

 縁もたけなわ。ラヴィを置いて酒場の方々で盛り上がり始めた。


 おだてられて飲み過ぎたのか、愛の女神様はテーブルに突っ伏して周囲の注目から外れている。声をかけるなら今だ。


 静かに近寄ってテーブルの横に座る。


「ラヴィ」


「んえ……?」


 身体を揺するといつも以上に緩んだ顔がこっちを向いた。


「ソーダさんじゃないですか。どうしました?」


 焦点が合ってるかすら怪しい目だな。別に工房へ連れて行くのは明日でもいいけど、まあいいか。


「ちょっと向こうで話そう」


「はーい!」


 間延びした返事で立ち上がるラヴィを支えて端っこの席に移る。


「支払いは済ませたのか?」


「ばっちりでーす!」


「……」


 まったく信用できないんだが。支払いを持つと言って途中で逃げ出すのはたちが悪すぎる。念のため確認だ。


 席を離れて酒場のカウンターへ向かう。給仕を含めて全員が女の人で、冒険者ギルド側に比べて制服の露出が上がっている。目のやり場に困って仕方なかった。


「あら、どうしたのお兄さん?」


「ラヴィの知り合いなんですがこの場の支払いって、ちゃんと済まされてます?」


「もちろんよ。アウクシリア家の執事さんに頂いてるわ」


「あー……わかりました。ありがとうございます」


 公認なのは予想外だった。どういう経緯でこんなことになったんだか。


 席に戻るとラヴィがまたテーブルに突っ伏していた。


「おい」


「んえ……? ソーダさんじゃないですか。どうしました?」


 ついさっきの記憶もなくなったのか。この駄女神め。


「酔っててもオーラは見えてるよな?」


「お任せください!」


 そのうち酔いはさめる。このまま飲み続けてゲロを吐かれても迷惑をかけるだけ。引き取って世話をしよう。


「今から行きたい場所がある。来てくれるか?」


「了解ですぅ!」


 再びラヴィを支えながら席を立つと、誰かが前に立ち塞がる。


「よお、どこ行くんだよ」


「なっ……」


 そこにいたのは殺された記憶も新しい、ウィスだった。


「んー? 何を驚いてんだ」


 そりゃあ驚く。むしろ驚き足りないぐらいだ。なんでこんなところにいるんだ……?


「その反応は怪しいよなあ。酔った愛の女神さまをどこに連れてくって?」


 なるほど……俺が悪だくみを考えてるかと思って止めに来たんだな。確かに、金払いのいい存在は普通にカモだ。


 周りが気づかずに楽しむなか、不審な男が目に付いたと。単純に面倒見がいいのはわかったが……。


「ラヴィは一緒に冒険者を始める予定の仲間だ。本人に聞いてくれ」


「そうなのか?」


「その通りですよぅ!」


 この通りと示すがウィスは疑わし気だった。そして、混乱のなかある案が浮かぶ。一緒に来てもらえばラヴィと距離を縮めるチャンスだし、たこ焼き作りが成功すれば商売を始める流れで人手の確保を頼める。


「心配ならついて来るか? 今日は故郷の料理を試しに作るつもりだ」


「へえ、面白そうじゃん。行ってみるか」


 ウィスを伴いラヴィに肩を貸して冒険者ギルドを出る。別に殺された恨みなど持ち合わせてない。どうせ愛の祝福が元凶だろうしな。


「俺はソーダ。そっちは?」


 名前を聞く前に間違って呼んだら確実に怪しまれる。自己紹介は済ませておこう。


「ウィスだよ」


 やはり別人ではなかったな。衛兵に顔が割れてないのか、そもそも紅盗賊団の一員ではなく外で暮らしてるだけなのか。事情がさっぱりだ。


「料理用の食材を売ってる場所に行きたいんだが」


「馬車に乗ってすぐだぜ」


 急な同行者が心強い。ラヴィを運びつつ乗合の馬車に乗り込む。


「ウィスは冒険者なんだよな?」


「じゃなきゃ、あの酒場を利用しねーよ」


「長いのか?」


「そこそこな。ソーダはどうなんだ?」


「冒険者になる予定はある」


「ふーん、男なのに珍しいな」


 相変わらず会話の距離感が近い。これならプライベート気味な内容も聞きやすかった。


「この町に来たばかりで色々と模索中だ。ウィスは近くに住んでるのか?」


「その日暮らしってとこかなー」


「安宿で狙い目があれば教えてほしい。むしろ安全に野宿できれば支出を抑えられて助かるな」


「駆け出しの冒険者が馬小屋を寝床にするのはよくあるぜ」


 馬小屋は思いつかなかった。過ごしやすさを含め気になるが、外での暮らしについては話してくれないようだ。


 冒険者をしながら得た稼ぎをみなのために使っているんだろう。紅盗賊団の存在があるし、気軽に吹聴するのは避けているとみえる。

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