第24話 愛の使者

「やっぱり肉は美味いな」


 コジリツムリを経験した後の食事だ。味に加え見た目の大切さが改めてわかったし、二回も刺された相手の支払いと思えば遠慮せずに料理を頼めた。


「お屋敷でいただいた食事も良かったですが、こちらの食事も素晴らしいですね!」


 ラヴィの食べっぷりを眺めながら今後について考える。やはり堅実な冒険者を目指すのが一番だろう。


 テーブルの上に置かれた巾着袋には料理を頼んだ程度ではなくならないほどの硬貨が詰まっている。たぶん装備を整えてもお釣りがくるな。


「あ、死んで巻き戻る地点が変わってたんだったな」


 ふいに思い出したので意見を聞いておこう。


「そうなんですか?」


 ラヴィがジョッキを片手に首を傾げる。


「一回目はラヴィがいた暗い空間で、二回目はその空間を出た森の中。三回目が老舎の取り調べ部屋だ」


 時間が進んでることしかわからないが、刺される直前に戻されて永遠に殺され続けるのは勘弁願いたい。


「わたくし、わかりました!」


 手を上げての自信満々な表情も久々だ。


「ソーダは愛の使者なんです! 誰かの愛を取り戻すたびに巻き戻る地点が更新されるんですよ!」


「……一回目は誰の愛を取り戻したんだ?」


「一回目はあれです。わたくしが人間になったため、あの空間に戻れなくなって祖語が出たんでしょう」


 すでに説は破綻しているが、不思議空間はノーカウントでもいいか。


「二回目は?」


「ソーダのおかげで、フェルスさんとは仲良くなれました。姉妹の絆で愛が生まれたんです!」


「三回目は……これからか」


「きっと町の外で住んでる方々に愛を届ける必要があるはずです!」


 こじつけな気はするが、ラヴィにとって愛が全てなのはわかった。


「愛を届けると言っても実際に行動へ移すとなると骨だな。手段も曖昧だし」


「難しく考える必要はありません。問題ごとの解決を目指せば、おのずと愛は生まれます!」


 まさにガバガバ理論だけど遠からずかもな。しかし、町の外で暮らす住人にとっての問題は深刻だ。果たして個人で解決できるのか……。


 ターゲットをペルナ一人に絞っても接触の仕方が厄介だ。ディリアの真似で物資を届けても普通に捕まる未来が見える。そもそも馬車に乗ってたから場所すら不明だった。


 まずは住人とラヴィを知り合わせるのが一番か。フェルスへのつながりを作ったうえで、資金力のバックアップを得て双方WINWINの関係になれる何かを見つけたい。


 例えばウィスとペルナなら戦闘能力は十分。身をもって体験したのは嫌な記憶だが、護衛役は成り立つ。


 ただ、アウクシリア家は武力の異名を持つと言っていた。馬車が襲われた失態から調達済みだったらアウトだし、やはり非戦闘員全員の支援は厳しいだろう。この町に足りなかったり必要とされている仕事を探す方向性で考えてみるか。


「とりあえず冒険者の活動はしばらくお預けにする」


「なぜですか?」


「また巻き戻って全てがなかったことになるのは無駄だ。問題の解決を最優先に行動しよう」


 信じる信じないはともかく一度ラヴィの仮説を軸に立てる。間違ってればそれでいいし、目標はあったほうが動きやすい。


「わかりました! わたくしは何をすればいいでしょうか?」


「当面はフェルスと仲良くしてくれ。今後、おそらく貴族の力が必要になる」


「仲はもういいですよ?」


「だったら仲の良さを継続だな」


 一日そこらで言いきる自信がある意味羨ましい。ラヴィが刺される展開も未知数で要確認だ。


「たまに冒険者ギルドで顔を合わせるか。ここで情報の交換だな」


「了解です!」




 ◇




「……」


 天井の染みが人間の顔に見えて、数分間にらめっこをした後に起き上がる。


 初めて町の安宿に泊まったけどベッドの布団は固くて値段相応の寝心地だ。しかし、牢屋に比べれば天国だった。


 ラヴィが持っていた巾着袋をいただいたので、当分は金を気にせず町で生活ができる。ようやくまともな日常を送れそうだ。


 部屋を出て入口のカウンターにいた受付のおばちゃんに鍵を返却する。


「この辺に風呂ってありますか?」


 散々な目に合ってきたんだ。少しぐらい楽しんでも許されるはず。町の様子を見て回りながらヒントを得ていこう。


「ああ、公衆浴場ならあるよ」


 後ろの棚から紙に書かれた地図が出てきた。


「ここさ」


 地図上を指で示されても土地勘がないんだ。これでは目的地にたどり着くのは難しい。


「その地図、もらうことってできます?」


「四千ルナだよ」


 宿の値段は四百ルナだった。一瞬戸惑うがこっちには大貴族様の資金力がついている。必要経費と思って払うことにした。

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