第23話 愛のオーラ診断
「おい、起きろ!」
牢屋の中で怒声に目が覚める。寝ぼけ眼に顔を上げると看守がこちらを睨んでいた
「……」
「早く手を出せ!」
仕方なく立ち上がって手を出すと手錠をかけられる。また会えると言ってくれたイケメンのディリアが助けに来たら惚れてしまうだろうな、と思ったけど出会う前にまた戻ったのか。やれやれだ。
巻き戻りの地点が急に進んだことはそのまま受け入れる。考えても一人で解決しないのはわかっていた。
鍵が外された鉄格子を粛々と出る。どこかに姉御と慕われる人物がいるんだよな。顔ぐらいは拝んでみたい気持ちが湧いてきた。
「おい、こっちだ!」
通路を奥に進もうとしたら首根っこを捕まえられる。他の牢を見て回ろうとしたのに無理だった。
大人しく階段を上がって取り調べ部屋に入る。
「名前を言え」
「……ソーダです」
改めての確認に真顔を返すが素直に答えておく。
看守が苦々し気に舌打ちをしたのが聞こえた。特に嫌な顔はせずにいると席を立って部屋を出て行った。
こんな行動、前回はとってなかったよなと思い出すが色々ありすぎて嘆息する。もう巻き戻りも三度目。諦めが板についてきた。
「あ! ソーダさん!」
しばらくするとドアが勢いよく開いて、ラヴィが入ってくる。懐かしさと安心感に危うく泣きそうになった。
後ろにはデリックさんを伴っている。謝礼はしっかり受けているようだ。
「久しぶりだな」
「一日振りですよね?」
こっちからすると、ひと月は会ってない気すらした。
「ソーダはどうしてこんなところにいるんでしょうか?」
「遅れて町に来たら、道中で衛兵に野盗の仲間だと間違われてな。証明する手段がなくて困っていた」
「それは大変でしたね」
ここではデリックさんの目がある。あくまでフェルスを助けた事柄とは無関係だと装っておく。
「ソーダ様はラヴィ様のお知り合いで間違いありませんか?」
「はい!」
「わかりました。少々お待ちください」
デリックさんが部屋を出ていき二人になった。貴族パワーで無罪放免になりそうだな。こんなことなら初めからラヴィを頼っておくべきだった。フェルスを警戒しすぎた弊害か。
「実はまた死んできた」
「そうなんですか?!」
「一度、情報の整理と相談をしておきたい。冒険者ギルドに送るよう頼んでくれ」
「了解です!」
屋敷に連れていかれるのは避けたほうが無難だろう。ふかふかのベッドで休みたい気持ちは山々なんだが。
「お待たせいたしました。話は付きましたので、牢屋を出ても問題ございません」
戻ってきたデリックさんが平然とした調子で言う。さすが頼りになる老執事だ。
「ここも久しぶりだな」
冒険者ギルドの酒場スペースで二人、隅っこの席で落ち着く。伸び伸びとできる環境が心底ありがたかった。
「ぷはぁ! この飲み物は美味しいですね!」
ラヴィが頼んだビールを一気に煽る。馬車を降りて、デリックさんから別れ際に巾着袋を受け取ったと思ったらこれだ。中身はデカジリツムリを何匹倒せば得られるのか、というぐらいの金銭が入っていた。
「確かに美味いな」
俺もご相伴にあずかっていただく。刺された身体に酒がしみて深いため息が出た。
「フェルスと会ってどうだった?」
酒場は騒がしいため話しづらい内容にうってつけだ。
「いい方でしたよ。一緒に食事をしてお風呂にも入って、同じベッドで寝ました!」
「へぇ……」
一日でそこまで進展するのは予想外だった。
「その、同じベッドっていうのは……?」
「あ、エッチなことを考えちゃいましたか?」
ラヴィは笑顔で楽し気に答える。愛の女神だし下ネタは得意分野なのかもしれないな。
「並んで寝ただけですよ。言うなれば姉妹みたいな感じでしょうね」
刺されるかはまだ未知数か。ただ、冒険者ギルドへ普通に来れている点で希望はあった。
「こっちはさっきの牢屋を運良く出た後に、森の中に作られた集落みたいな場所でまた捕まってな」
「町の外で暮らす方々がいるんですか?」
「事情が色々あるらしい。そこにいた人物に殺されたんだが、急に俺への愛があると言い出したのが引っかかった」
「ソーダは愛に溢れていますからね。わたくしが人間になった今も、眩しいオーラが見えています」
「オーラ……?」
「モヤモヤっとしたやつです!」
ラヴィには普通の人に感じられない何かが見えるのか?
「例えばフェルスに対してはどうなんだ?」
「ちょっとした違和感はありましたね。こう、愛に飢えていると言うんでしょうか。寂しさを持った方だと思いますよ」
「なるほど……そういう相手に愛の祝福が影響を与えることは?」
「愛の祝福は特殊な能力ですので、何が起きても不思議ではありません」
フェルス一人ならともかく、ペルナの行動もおかしかったんだ。関係性を持った相手によっては、狂わせてしまう可能性がある前提で考えたほうがいい。刃物を持ち出すヤンデレ化は厄介だな。
まあ、ウィスには仲間をたぶらかしたと勘違いされて殺されたわけだが。狂犬もほどほどにしてほしい。
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