第22話 愛の魔法
「ペルナ! 何をしてんだ!」
外に出るべきか迷っているとウィスが血相を変えて走ってくる。
「鉄格子を開ける時は、まずあたしに言え!」
「ソーダさんが逃げても私の責任になるだけでしょ?」
「そういう問題じゃなくてだな……!」
「じゃあ、どういう問題なの?」
また二人の間に謎の険悪ムードが生まれて、かなり気まずい。できれば俺の目がないところでやってほしい。空気が薄くて窒息しそうだった。
「水浴びに行きましょう」
「あ、はい……」
ペルナが初めて見せる笑顔に押されて外に出ると、ウィスに睨まれる。俺が何かしたとでも考えているのか。
何度か通った森の中だが緊張に襲われる。割と気軽な囚人生活を送っていたはずなのに、こうも不穏な展開になるとは……。
すぐ隣にペルナが歩いているのも不自然で距離感が明らかにバグっている。後ろからの圧がこもった視線が普通に怖かった。
河原に着いて、もう早く済ますために服を脱ごうとしたところで……。
「ウィスちゃんは後ろを見てて」
「あ? なんでだよ」
「裸を見るのは失礼だよ」
「見張るのが仕事だろうが」
「私が見張る」
「お前が見るのは失礼にならねーのか?」
「私には愛があるから」
「はあ?!」
まさかの言葉にウィスが驚きの声を上げるが、まったく同じ気持ちで混乱する。何がきっかけだったのかさっぱりで、こんな時になぜかフェルスのことを思い出してしまった。
「……そりゃダメだ。聞き流せねーよ。ソーダ、残念だがここでお別れだ」
「なっ!」
ウィスが背中の剣を構えて振り上げる。踏み込んだ足が地面を抉ったのを見て死を覚悟したが、金属同士がぶつかる音に尻もちをついた。
「やらせない」
間に入ったペルナが二本の短剣で剣を弾き、追加で頭部へ蹴りを放つ。
「このっ!」
腕を上げてガードしたウィスは後ろに飛んで距離を取った。目の前で行われた戦闘行為に、ただただ傍観するしかない。
「ソーダ! ペルナにどんな魔法をかけやがった!」
「魔法? 愛って言ったよね」
「うるせえ!」
力任せに振るわれる剣が短剣に軽くあしらわれたが、その剣は地面を砕いて見せる。二人ともフィジカルが人間を越えていた。
「っち……普通にやっちゃ、らちが明かねーよなあ!」
ウィスが再び距離を開けると地面へ向けて剣を振り下ろした。軌跡が目で追えないほどの速さで轟音が響く。
砕き抉られた地面はこちらへ方向性を持って飛んできた。河原のため大小様々な土石が襲い来る。
慌てて逃げるも腰が抜けたように力が入らなくて焦るが、ペルナに抱えられてその場を脱した。
「お荷物を守って勝てると思うなよ?」
「くっ!」
何が起きたのかわからずに地面を転がる。衝撃を受けて川辺で仰向けになった瞬間、無表情のウィスが俺を見下ろしていた。
「死ね」
「ダメ!」
「んがっ……!」
剣が腹を貫いて、一気に引き抜かれた痛みで意識が持っていかれた。
◇
「いってぇ……!」
反射的に腹を押さえるが服に穴は開いておらず、木製の手錠がかけられていて変な声が出る。
「……いきなり声を荒げるな!」
怒鳴り声に顔を上げるといつか見た看守が睨んでいた。周りの様子から取り調べ部屋にいるのがわかる。
「これは……」
思考の停止もそこそこに死んで巻き戻ったのだと理解する。まだ腹部に痛みが残っている気がして冷や汗が出てきた。ウィスのやつめ……もっと丁寧に殺せなかったのか。
「いい加減、仲間の居場所を吐け!」
状況を整理する間もなく尋問が始まる。ペルナの変わりようは明らかに異常だった。魔法を疑われるのも当然だが身に覚えはない。もしかすると、愛の祝福が何か関係して……?
「おい! 黙っていてもここからは出れんぞ!」
「……アウクシリア家に連絡を取ってください」
「ふざけるな! お前らが襲った相手になぜ……!」
「ラヴィという名前の冒険者仲間が世話になっているはずです」
そもそも、今回はまだお互い冒険者になってないが説得には最適な理由だ。愛の祝福についてラヴィを思い出し、相談したくなって名前を出してしまった。
「嘘をつけ!」
確認をすれば済む話と安易に考えたが否定はするか。看守と貴族には権力の隔たりがあるらい。
しかし、信ぴょう性を確認するプロセスは必要なのか尋問の勢いが弱まった。
「……今日は牢に戻れ。適当な発言をしていると痛い目を見るぞ」
この反応は期待ありだ。正直、ラヴィ次第な部分はあるけどフェルスとの仲が深まっていると願いながら大人しく過ごすしかなかった。
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