第20話 寝起きに悪いイケメン

「飯できたぞー」


 謎の集団に囚われて二日目も夜。またウィスとペルナの二人組が見張りにやってきた。


「ほい、差し入れだ」


「……コジリツムリ以外の食事ってないのか?」


 皿に盛られた姿を見ると食欲がどうしても失せてしまう。


「おいおい、牢に入る身分でわがままかよ」


「誰かのせいで、派手な水浴びをさせられて風邪を引きそうなんだ。何か温かいものを頼む」


 川は想像以上に冷たく言葉そのままに死ぬかと思った。ウィスは出ようとするたびにゲラゲラ笑って邪魔をするし。もはや拷問で、寒さに縮こまったアソコを何度もからかわれて散々だった。


「焼きたてのコジリツムリだぜ? 熱々じゃねーか」


 文句を言っても無理か。仕方なく殻をほじって目を閉じながら中身を食べる。味はクセになるほど美味しいんだけど、見た目も重要なのが料理だ。


「あー、そうだ。町のほうに行ったら検問が厳しくなっててな。姉御たちが足止めを食らってるんだよ。ソーダを町の中へ連れてくのもリスクが高い。しばらくはここで面倒を見てやるから安心しろよな」


 安心って、毎日水責めの拷問を受けることが? 三日と経たずに死ぬ未来が見えた。


「もう俺を逃がす方向性で考えてもいいんじゃないか。貴重な食料が無駄になるし見張りも負担だろう」


「あたしが働いて食わせるし余計な心配はすんなって!」


 冗談めかしてはいるが逃がすつもりはないらしい。本当に町の牢屋へ逆戻りになったら、別の罪状も加わって今度こそ終わりだった。


 チャンスがあるとすればファイアボールの使い道。おそらく魔法すら使えない雑魚と思われているはずだ。身体を縛るものが縄なら、やけど覚悟で試すか。


 食事が終わると敷物に寝転んでごろごろするだけ。ウィスとペルナも交代で話し相手がいなくなり、自然と眠りについて三日目を迎えた。






「おや、先客かい?」


 声と鉄格子の音が聞こえて目が覚める。いつの間にか牢屋の中に初対面の優男がいた。


 敷物があっても眠りは浅い。寝て起きてを繰り返し、外の明るさから時刻はすでに昼を過ぎているとわかるが……。


「ぼくはディリア。きみの名前は?」


「……ソーダだ」


 いきなりのことで驚く。眩しい金髪に整った顔立ちのイケメンは寝起きに悪かった。


「この牢屋は寒くて困るね」


「経験者みたいな口ぶりだな」


「定期的にお世話になってるよ」


 堂々と言うセリフか。


「ストーカーでもしてそうだな」


 調子に乗って誰彼構わず声をかけるのがイケメンだ。どうせ、ろくでもないやつに決まっている。


「遠からずだね」


 ディリアは前髪をかき上げて、やれやれといった様子で首を振った。そんな仕草も絵になって理不尽を感じる。


「ソーダはなぜこんな場所にいるんだい?」


「勘違いだ」


 説明が面倒なので適当に濁す。


「それは災難だったね。ぼくが間を取り持ってあげようか?」


「……」


 寝起きのせいか意味がわからずに黙ってしまった。


「ここにいる子たちには少し顔が利いてね」


「捕まってるくせに?」


「それこそ勘違いさ」


 まったく理解が及ばず、とりあえず話を聞いてみることにする。


「この集落と言っていいか謎なんだが、どういう集まりなんだ?」


「一言で表すには難しい質問だ。イニティウムが避難する場所の一つになっているのは知っているかい?」


「聞いてはいる」


「そこに問題があってね。一般的な市民が移り住む分には比較的大丈夫なんだけど、貴族が少し厄介なんだ」


 ディリアが横に座る。距離が近いうえに、いい匂いがして複雑な心境だ。敷物目当てなのはわかってるが。


「貴族というのは色々としがらみが付きまとうもので、どこへ居を構えるにも体面が大事になる。例えば大きな建物を作ったりね」


「見栄か」


「簡単に言えばそうかな。そのためには土地が必要で、目をつけられたのがスラム街さ。外壁を追加で築くには時間がかかるからね」


 なんとなく話が見えてきた。


「孤児を迎える教会を各所に用意したり最低限の支援は行われているけど、町を離れざるを得ない人たちがいるのが現実なんだ」


「それがここの住人か」


 貴族のフェルスを知った後に聞くと受け止め方が難しい。


「ただ、反骨精神っていうのかな。一部が貴族をターゲットに、金品に限らず様々な品物をかすめ取り始めてね。紅盗賊団を名乗って活動を行い、力を持たない子たちを助けてるんだよ」


 多くは切実な事情で仕方なく森の中に住んでるのか。印象がかなり変わったな。

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