第17話 間違いは誰にでもある
「いい加減、仲間の居場所を吐け!」
「いや、本当にあなたたちが考えてる野盗とは無関係で……」
馬車を襲ったのはイニティウムの町近辺で活動する野盗の集団らしく、名前を持たずにワニのシンボルを使っているんだとか。勝手にワニワニ団とでも呼ぶことにしよう。
テーブルと椅子があるだけの部屋で看守にこってり絞られる。ただし、今のところ暴力は振るわれていなかった。無実の可能性を考慮し手を抜いてる可能性はあるが、いつ痺れを切らすか。
時間の感覚がなくなる頃に牢屋へ連れ戻される。ここでは手錠を外してもらえるけど自由は皆無。わらの敷物が虚しさを加速させた。
檻は他にもあって、たまに鉄格子を叩く音が聞こえてくる。叫び声や奇声を上げるやつらがいなくてよかった。
敷物に寝転んで、ただただ無為に時間を過ごす。食事は硬いパンと味の薄いスープで屋敷が恋しくなってきた。異世界でいきなり美味しい思いをしすぎたな。その代償がナイフなんだが。
窓がないので夜かどうかも謎。いつの間にか寝て目覚めてを繰り返す。空気の淀みを感じて換気が正しくされているのか不安を覚えた。
「おい」
そして、看守が鉄格子を叩いて顎を動かす。
「手を出せ」
隙間に両手を出すと手錠をかけられた。鉄格子が開き、連れ出されて階段を上がると再び取り調べ部屋に放り込まれる。
「早く吐いたほうが身のためだ。痛い目を見たいか?」
「……」
打つ手なしとはこのこと。適当に情報をでっち上げるのも危ういし、流れに身を任せるしかなかった。
◇
「……?」
牢屋の中で物音が聞こえて目が覚めた。何か雰囲気が変わって……ああ、通路の灯りが消えてるのか。目を閉じていたはずなのにまったく暗闇に慣れなかった。
「姉御、行きますよ」
小さく女の声がした後に鍵の外れる音がする。まさかと思い手探りで鉄格子を調べると普通に開いてくれた。
「……」
一体どういう状況なのかさっぱりだがチャンスだ。このまま牢屋にいると遅かれ早かれ痛めつけられる。とにかく逃げるのを最優先に行動あるのみ。
記憶を頼りに通路を進んで階段をつまづきそうになりながら上がった。
「門の外に馬車を用意してます。わたしは後始末をするので、先に乗って戻ってください」
よくわからないまま外に出ると夜なのに明るく感じる。確実に誰かと間違われていたが向こうのミスだ。ありがたく利用させてもらおう。
地面に倒れる看守と衛兵を越えて門を出ると言われた通りに馬車が止まっていた。ちょっと迷うが幌付きの荷台に乗り込んでみる。牢屋を出たのがバレた時のことを考え、できるだけ早くこの場を離れたほうがよかった。
「出ます」
馬車はすぐに走り出す。俺以外に御者役が一人とはいえ誰が乗ったかの確認もなしか。詰めが甘いけどワニワニ団みたいな悪い連中なんだろう。無実の罪で捕まった仲間を助けに来た善人、と楽観的になるのは早い。
途中で荷台を飛び下りたかったが思いのほか速度が出ている。どこかのカーブで遅くなるのを祈るがタイミングを逸してしまう。
「おい、止まれ!」
聞こえてきたのは衛兵の声で、どうやら門を出て町の外に出たようだ。さすがに猛スピードで通り過ぎる馬車は制止対象か。構わず突破するとは、俺も仲間認定で正式なお尋ね者だ。
御者に声をかけて気づかせるべきか悩む。衛兵が追いかけてきたら牢屋に逆戻りだし、もう少し様子を見るつもりで乗っていると森の中へ入っていく。
夜の森は見通しが悪く地図があっても確実に遭難コース。ここで降りなければ新たな厄介ごとに出くわすが、岩場交じりの地面が素直に怖かった。
ワニワニ団の剣を奪った結果、全てが悪い方向に転がっている。人間、真面目に生きるのが一番だと諦め半分に外を見ているとふいに木へ下げられた灯りが通り過ぎた。
馬車の速度も落ちて腰を上げる。おそらく野党に準ずる組織の縄張りに入ったんだ。迷子になる覚悟で飛び出すしかない。
「……」
ここ、ここ、と比較的安全な場所を見つけては最高の着地を決める自分の姿を想像する。
「っ……!」
勇気を振り絞って荷台からジャンプ。不格好な着地後に一歩、二歩、三歩、四歩、五歩とよたよたのステップを踏んで体勢を整える。
「姉御……?」
「いや、違うぞ!」
「姉御じゃない! 侵入者だ!」
方々から声が聞こえて焦る。思った以上に見張りが多い。とにかくダッシュで逃げ切るしかなかった。
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