第11話 デカジリツムリ
「ありがとうございました」
御者を務めてくれたアウクシリア家の使用人にお礼を言って馬車を見送る。冒険者ギルドだけでなく門にまで送迎してくれたのは素直に助かった。
フェルスに出会った北門とは反対側の南門を出る。景色はほぼ同じだが、町につながる川が近くに流れていた。
モンスターはともかく賊の存在に一抹の不安がある。さすがに無一文の冒険者に手を出す暇人はいないか。
「お散歩日和ですねー」
ラヴィは二日酔いなどどこ吹く風で歩く。出すものを出してすっきりしたらしい。
「目標はあの森の中だ」
少し歩いたところに鬱蒼とした森が広がっている。デカジリツムリは回復用のポーションなどに使われる薬草を食べるため、厄介なモンスター扱いなんだとか。
動きが遅く駆け出しの冒険者に優しい相手と聞いたけど依頼書の在庫は豊富だった。殻が硬くて攻撃が通りにくいのは想像できる。ある種の面倒があるんだな。
「わたくしは何をすればいいんでしょう」
「基本は周りを警戒で自分を第一優先に守ってくれ。危険が迫っても俺になすりつけるぐらいでいい」
未経験なりに半端な知識で作戦を立てる。大きく間違えてはないはずだ。
「ソーダが怪我をしちゃいますよ?」
「その時は得意な回復魔法で治してくれ」
「了解です!」
森に踏み込むと太陽が遮られて日陰になった。緊張を和らげるため、木々が密集する場所を避けて光を求める。
「小さな池が各所にある森でその近辺に生息するんだったな」
「わたくしは泳げませんよ!」
「浅い池ばかりだし、そもそも戦うのは陸地だ」
「なら安心ですね」
適当な会話を挟んで気を紛らわせる。地図やモンスターの特徴は冒険者ギルドで調べているが実戦だ。歩いているだけで汗が出てきた。
「待った……」
進行方向にデカジリツムリを見つけてラヴィを制止させる。思ったよりもでかくて恐怖心が煽られた。二本の触覚も気持ち悪さがあって近寄りがたい。
周囲に注意を払うが他の個体は見当たらなかった。まずは魔法の効果を試そう。
「ふぅ……ファイアボール!」
二度目の死を体験後に発動する初めての魔法だが、無事に成功して生まれた火の玉が飛んでいく。狙い通りにデカジリツムリへ命中し燃え始めた。
かき消されなければ中々の威力だ。炎が消えると殻が地面に倒れる。
「お見事です!」
確認のため近づくと貝の中身に似たナメクジ型の本体が焼け焦げていた。剣で突いても動かず討伐に成功したのがわかる。
この世界の通貨で換算するとデカジリツムリの報酬は一体100ルナだ。ビールが300ルナなのを考えるとかなり渋かった。
とはいえ冒険者ギルドの資金力も無限じゃないはず。一冒険者に取れる手段は討伐を粛々と繰り返すことか。
殻は岩のように硬くて剣で壊すのは難しいが、本体には……抵抗なく刺さった。
「たぶん剣でも戦えはするな」
「わたくしも剣を持ったほうがいいのでしょうか?」
「持つなら杖だと思う」
確か、冒険者ギルドでローブ姿の軽装が杖を持っていた。おそらく魔法の効果を上昇できるんだろう。
「杖はおいくらで売っていますかねー」
「回復魔法は杖がなくても使えるんだよな?」
「はい、大丈夫です!」
だったら後回しだ。酒は気に入ったみたいだし代わりにそこで楽しんでもらうか。パーティ内であまり差は作りたくなかった。
デカジリツムリは害獣の面が強く素材の回収作業を省ける。正直、見た目的に触れるのには躊躇するのでよかった。
「ラヴィはこういうモンスターに嫌悪感ってあるのか?」
「特にありませんよ」
そう言うとデカジリツムリの死体横にしゃがんで素手で触れる。
「パサパサしてます。炎で焼かれたせいですかね」
虫系が平気なのは心強い。今後は頼らせてもらおう。
「次に行くか」
「はい!」
討伐数が単純な報酬だ。ひと息つくのは非効率。新たなターゲットを探すために移動する。
近辺の草が食べ散らかされているのはやつの仕業か。薬草採取の依頼があれば報酬の上乗せになるな。
念のため迷わないよう近くの池を見つけてから方向を決めた。
「ソーダ……!」
ラヴィの珍しく空気を読んだ、ボリュームが抑えられた声に足を止める。指で示された先には二体目のデカジリツムリがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます