第7話 同行者

「わたくしに会うのが二回目、ですか?」


 異世界でも死んだことをラヴィに説明する。夢で済ますには記憶が鮮明過ぎた。


 結局、フェルスは美愛と似た性格の持ち主だったんだろう。短い期間で刺されるまで関係が進行するとは予想外だった。


「うーん、不思議なことがあるんですね」


「いや、そんな軽く流されても……」


「アイダアイト様が持つ愛の祝福は特殊なもので、詳細は語れません。ですが、その影響だと考えるのが自然でしょう。女神すら欺くなんて、よっぽどですよ」


 確かに、死んで生き返ったとしても俺にだけ記憶があるのは妙な話だ。


「俺はどうすればいい? 後、名前はソーダと呼んでくれ」


「わかりました! ソーダ様には再度、と言っていいのか難しいですが、魔王の対抗戦力になってもらいます。世界に愛をとりもどしてください!」


 目的は変わらずか。ファイアボールを使える実感はあって、記憶の他に経験が残っている。死んでも平気なら優秀なゾンビ兵だ。


 しかし、今後も同様に生き返る保証は皆無。残機の数は不明で何より、死ぬときの痛みは何度も体験したくなかった。


 包丁とナイフで刺された激痛は鮮明だ。ただまあ、どちらも意識はすぐに失ったな。二人とも刺しどころを心得ていたのか苦しみが少なかった点では助かった。


「また戻るのはいいんだけど、刺された相手と顔を合わすのはまずい。前とは別の場所に送ってくれるか?」


「前というのは記憶にありませんが、場所の指定は難しいです。女神も世界への干渉には苦労するんですよ」


 ラヴィはやれやれといった様子で首を振る。愛の祝福についても知らないし困った女神だな。


「それに時間の流れは同じはずです」


「同じ……?」


「わたくしが感知できる範囲で時間は飛んでません。つまりソーダ様は、蘇ったのではなく過去に戻ったのだと思います」


 ああなるほどと納得できるぐらいの耐性はついている。死んで生き返ったんだ。もうなんでもこい、と大口は叩かずお手柔らかに願いたい。


「ではソーダ様! 愛をとりもどす準備はよろしいでしょうか?」


「頑張るか。後、大げさな敬称はなくていい」


「はい、ソーダ! 頑張りましょう!」




 ◇




 一瞬にして暗闇の空間から森の中に移動する。見覚えはあるけど、よくある森なんだよな。確認のため周りを見渡すとラヴィと目が合った。


「は……?」


「さあ、魔王を倒しに行きますよ!」


「いやいやいや、なんでいるんだよ……」


「せっかくなので受肉しました!」


「受肉って……」


 女神が人間になったのか? せっかくの意味は謎だし。


「ソーダが死ぬと経過した時間がなかったことになるんですよ? 普通に考えて損した気分になっちゃいます。だったら! どうせなら! 新鮮な体験をしたいと思いますよね!」


「……」


 首を傾げたくなるのは女神と縁遠い存在だから?


 同行者ができたのは心強いと前向きに考えるよう努めたところで、叫び声が聞こえてきた。時間が巻き戻ったとすれば同じ現象が起こる可能性が高い。おそらくフェルスが乗っている馬車が襲われているはずだ。


 ここで前と同じ行動を繰り返せばナイフが待っている。だが、無視を決め込んでフェルスの身に危険が及ぶのは寝覚めが悪かった。


「ラヴィ、女神パワーで悪い連中の成敗を頼む」


「今のわたくしは少し回復魔法が得意な普通の人間です。ぜひ、愛の力で守ってください!」


 愛の女神が言うセリフか。


 とりあえず森の中を移動して草陰に隠れる。街道では馬車の周りで兵士と賊がやりあっていた。


「ラヴィは道を進んだ先にある町で衛兵に助けを求めてくれ」


 助けはするが顔を見られるのは阻止しなければ。そのうえで、賊の仲間を警戒するなら衛兵を呼ぶのは早いほうがいい。


「了解しました! 行ってきます!」


 隠れてるのがバレるから静かに頼む。


 ラヴィが敬礼を見せて小走りに離れていった後に、争いの行く末を見守る。結果がわかっているのは変な気分だ。


「おら!」


 兵士が転ばされてここだというタイミング。飛び出て賊にタックルをくらわす。


「んなっ!」


 予想通り馬車に頭をぶつけて地面に倒れたので安心した。そこへ立ち上がった兵士が剣を突き刺す。


「はぁ、はぁ……この先にあるイニティウムの町へ、お嬢様を頼む……」


 再び力なく倒れ込んだ姿を見てなぜかため息が出た。


 中にいるフェルスへ声をかけるとゲームオーバーに近づく。町との間に賊の仲間はいなかったし、この場で待たずラヴィを追ってもいいか。


 きっと襲われても大丈夫。ナイフがあれば撃退できるはずだ。




 ◇




 兵士と野盗が相打ちに倒れた後、馬車の窓掛に隙間ができる。そこから覗くのは赤い瞳で、離れていく男の背中をジッと捉えていた。

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