「怜奈、聞かせてくれ。俺はお前の力になりたいんだ。一人で抱え込むより、誰かに話した方が心も楽になるはずだ」


「そんなに……聞きたい?」


「ああ、聞きたい」



 ここまで来たら後には退けない。俺は怜奈を見据えながら頷く。



 すると、怜奈は観念したように小さく息をつき、それからゆっくりと口を開いた。



「お父さんが……重いうつ病で仕事を辞めたの。ずっと休んでいた仕事も辞めて、今は病院に入院してる……。それで、お母さんも最近は体調を崩して寝てばかりで……。こんな状況なら、本当は私がちゃんとしなくちゃいけないんだけど、私も最近、ほとんど眠れてなくて……。



 それで、きのうお母さんと話し合ったんだけど……みんなでお母さんの実家がある田舎に引っ越そうって、そういうことになったわ。だからあなたとも、もうすぐお別れ。私……転校しちゃうから」



「――――」



 何も、言葉が出てこない。



 俺は甘い、子供だった。



 怜奈は何かで困っている。でも、それはどうせ大したことじゃなくて、解りやすい原因や敵のようなものがあるに違いなくて、俺ならそれを解決してやれるに違いないと、無邪気な子供のように考えていた。



 俺は本当になんの一言も怜奈に返すことができず、怜奈はその言葉の通り、翌日から学校へ来なくなり、やがて転校していった。



 これは俺の浅はかさが招いた結果かもしれない。もっと怜奈のことを思いやっていれば……。そう後悔しても、もう何もかも遅いのだった。



 エンド4:どうしようもない現実。

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