⑦
いや、別にそこまで気を回す必要はないだろう。怜奈ももう立派な高校生なんだし、俺は怜奈の父親でもないんだから、いちいち面倒を見る必要なんてない。むしろそれはお節介というものだ。
というわけで、
「じゃあ、また明日な、怜奈」
分かれ道の十字路でそう言って、怜奈に背を向けて自宅へと向かう。
心なしか、一人になると秋の寒さが身にしみる。
――そういえば、手袋って穴が開いたから捨てたんだっけ? だったら新しいの買わないとな……。
なんて思いながら早足に歩いていると、唐突、後ろから誰かが走ってくるような足音が聞こえてきた。
ん? と後ろを見て、ギョッとする。
「れ、怜奈?」
さっき別れたはずの怜奈がそこにいた。
走って俺を追ってきたのだろう、怜奈は肩で息をしながら立ち止まり、それから俺を真っ直ぐに見つめた。その目が微かに潤んで見えたのは、すぐ横を通り抜けた車のライトのせいだろうか。
怜奈がこんなに走って俺を追いかけてくるなんて何事だろうか。そう呆然とする俺を、怜奈は息を弾ませながらしばらく見つめていたが、やがてか細い声で言った。
「あなたにとって……私なんて、どうでもいい存在だったのね」
「え?」
「でも、これだけは言いたくて……今まで、ありがとう。――さようなら」
そう言って、怜奈は俺に背を向けて走り去っていった。
「はぁ……?」
俺は混乱して立ち尽くすことしかできず、ハッと我に返った時には、既に怜奈の姿はどこにも見えなくなっていた。
そしてそれきり、俺が怜奈に会うことはなかった。
あの『さようなら』は、本当の『さようなら』だったのだ。そう気づいたのは、怜奈が一家で引っ越しをしたという噂を母から聞かされた時だった。
どうやら俺は……何もかも鈍すぎたらしい。
後悔しても遅い。俺にできることは、もう何もない。
エンド1:さようなら。
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