⑥
「なあ、怜奈。読書中の所すまないが」
「何?」
「俺はもう帰りたい気分なんだが、お前も一緒に帰らないか? もう暗いし」
「私は……」
怜奈はふと口をつぐんで、壁掛け時計をちらりと見たり、手元で開いたままの文庫本へ目を向けたりして迷うような様子だったが、やがて小さく頷いた。
「うん……。私も帰る」
とのことなので、俺たちは二人で下校時間より少し前に部室を後にした。
もうかなり暗くなってきていたが、本校舎の中は運動部や吹奏楽部でまだまだ賑やかだった。だが校舎を出ると一転して、辺りには憂いを帯びた晩秋の静けさが満ちる。
「寒っ。一気に冷えたな」
「……うん」
怜奈は真っ赤なマフラーに顔を埋めるように頷く。
「俺もそろそろマフラーしないとな……。っていうか、お前ってホントに赤が好きだよな。ブックカバーも赤、マフラーも赤、手袋も赤、弁当の包みも赤。そんなに赤ばっかりで飽きないのか」
「別に……好きなわけじゃない」
「え? そうだったのか、知らなかった」
「き、嫌いなわけじゃないけど……普通」
「へえ」
それにしてはやたら昔から赤で身を固めている気がしなくもないが……ああ、怜奈のお母さんが赤が好きで、そういうアイテムを買ってきているのかもしれない。思えば、よく赤いエプロンを着ていた記憶もあるし。
「つか、マジで寒いな。雪でも降るんじゃないか」
と、マフラーも手袋もない俺は身震いしながら歩く。
寒いと、余計なことを喋る気も失せてくる。なので俺は特にそれ以上話すこともなく、かといってそれはいつものことなので気まずいということもなく、二人ただ白い息を吐きながら並んで歩いた。
そうしていると、やがて、俺はそれまで密かに持っていた違和感を明確に感じ始めた。
なんとなく……怜奈がいつもと様子が違うような気がする。
根拠は何もない。何もないのだが、何か空気に違和感がある。どこか気落ちしているような、それでいてどこか落ち着かないふうな、そんな感じが、今日――いや、ここ数日ずっとしているような気がする。
何か悩みでもあるんだろうか。ここは一つ包容力のある紳士として、コンビニで温かいコーヒーでもおごってから相談に乗ろうか?
Which would you choose?
Yes. / No.
Yes:⑨へ。
No:⑩へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます