いや、冷静になれ。怜奈の思い詰めた様子からして、今は告白をしていい状況じゃない。それよりも、



「どうしたんだ、怜奈? 何か用事でもあるのか?」



 落ち着いた声で尋ねると、怜奈は足を止めてこちらを振り返る。そして、俺の様子を観察するようにじっとこちらを見て、それから小さく嘆息をした。



「いえ、そういうわけじゃ――」



 ダッ、ダッ、ダッと部室の外、扉の向こうの廊下から、不意に誰かが騒々しく走ってくるような音が聞こえてきた。



 その足音は部室の前で止まって、ガチャッと荒々しく扉が開かれる。現れたのは、怜奈のクラスの担任である中年の女教師だった。



「伊吹さん。病院から電話があって……」


「病院……?」


「ええ、だから……ちょっと」



 先生は気まずそうな顔で俺を一瞥してから、怜奈を連れて部室を出て行った。



 俺はただ一人、部室に残されて、それからしばらく怜奈の帰りを待ったが、下校時間を過ぎても帰ってくる様子がなかったので、一人で下校した。



 そして、それから――俺が怜奈に会うことは、二度となかった。



 怜奈は翌日から学校へ来なくなり、それからしばらくして母から、入院していた怜奈のお父さんが亡くなったので、怜奈がお母さんと共に田舎の実家へと帰ったらしいという噂を聞かされた。



 怜奈の家庭で何が起きていたのか、俺には何も解らない。怜奈のことをもっとよく考えていれば、違う未来があったのだろうか。



 いや、でも、こればかりは俺にはどうしようもないことだった気がする。きっと考え得る様々な不運が重なって、こんな結末になってしまったのだろう。



 エンド2:不運の結末としての絶望。

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