かつての、記憶

 ……ライブは終焉を迎える。

 舞台には幾人かの声優が並び、それぞれに締めの言葉を口にする。

 熱狂の余波は、舞台上にも伝わってくる。

 マイクがバトンのように渡され、流れ――遠藤蓮花の手元に収まる。

 そこで彼女は高らかに、誇りを持って宣言する。

「みんな、ありがとう。今回のライブは本当に、思い出に残る良いライブになったと思います! みんなも、そう思うかな?」

 歓声が上がる。観客たちが持つペンライトが細かく震えて波のようになる。

 彼女は言った。

「シュペちゃんって、私にそっくりなんです」

 だから、私は。

「シュペちゃんが、大好きなんです!」


 これは、かつての記憶。

 一度起こり得た奇蹟の残影。

 そしてもう二度と戻らぬであろう、砂上の楼閣。

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