07話
「まだ帰らないの?」
「うん、保香は気にせずに先に帰って」
「分かった、また二十一時とかまで外にいたりしないでね」
「しないよ、完全下校時刻が変わっているんだからさ」
用がないなら早く帰れというやつだ、まあ、残ろうとしている私が言うのもおかしいけど。
とにかく妹は出て行った、今日は島角さんと一緒に帰るみたいだった。
相手が同性とはいえ、複数の子といられるのは強い。
「放課後の教室で一人で過ごす時間が好きになっちゃったんだよなぁ」
「一人じゃないよ」
「上持さんか、いますぐに追えば保香達といられるよ?」
「いいよ」
この前のことが影響して気持ちよくいられない。
髪の毛に気を使っていただろうし許可も貰わずに勝手に触れた私が悪いのは分かっている、でも、ああいう対応をしておいて来るのがよく分からないんだ。
いやだって普通は距離を作るものでしょ?
「ちょっと飲み物でも買いに行こうよ」
「じゃあ買った後はあそこで過ごす?」
「ん? ああ、まあいいんじゃない」
んー、勢いもなくなってしまったうえに丸くなってしまったのがなんとも……。
少し前までの彼女は島角さんと保香本人にはっきり言えなくてもやもやしていたということだろうか? いまは知ってもらえたから元に戻った可能性がある。
そもそも私は過去の彼女達がどういう子なのかを分かっていないため、これもただ装っているだけの可能性もあるけど……。
「聡子、滅茶苦茶驚いていたね」
「あんな反応になるとは思わなかったけどね、それは上持さんも同じだよ」
「勝手に触らないで」と口に出して拒絶するならともかくそうじゃなかったから、謝った後も黙ったままでやらかした感が凄くなった。
先程も言ったように被害者面はできないことだ、でも、それだとまじ感が凄くなるからなんとかあそこでは「とにかくやめて」とか言ってほしかったなと思っていた。
結局同じようなものか、だからちゃんとまた謝罪をしておいた。
「あー」
「あれか、好きな子が触ってくるならいいけどってやつか」
「別にそんなんじゃないよ、だけどあのときのあんたが気持ちが悪かったんだから仕方がないでしょ」
「えぇ」
無理やり笑っていたわけじゃない、お家だからというのが影響して緩い感じになっていただけだ。
学校のときと全く違って違和感がある、気持ちが悪いということなら――いや、それにしたって気持ちが悪いは言い過ぎではないだろうか。
きっと彼女達だって同じだ、保香もお家では甘えてくれることが多いから私だけが当てはまることではない。
寧ろあそこでも同じように緊張するようならそれこそ帰る時間をもっと遅らせているという話だった。
「あんたはなにを飲むの?」
「奢ってくれるの?」
「違う、いちいち個別に投入するのも非効率だからまとめて買うだけ」
「あ、じゃあこれかな」
「了解」
お金を渡してボトルを受け取る、そこまで喉が渇いていなかったからすぐに開けたりはしなかった。
あの場所に行く気も本当はなかったため大人しく教室に戻る。
「「それでなんで別行動中?」」
私にとっては普通のことだから彼女が聞いてくるのは違和感しかない。
保香といられるときは保香と、一緒にいられないときは島角さんとと行動している彼女がこうしていることの方がおかしいんだ。
「一応言っておくと私のこれはただの暇つぶしだよ」
身内がすぐに帰ってくるときばかりじゃないからそういうことになる。
「私だって同じだよ」
「なんで上持さんってこうなのかなぁ」
敢えて私じゃなくていい、なにか趣味を楽しむとか、ちょっとあれだけど島角さんと過ごしたりするのでもいいんだ。
恋をすることだけが全てじゃないというのは本当のことで、ちゃんと意識をすれば沢山楽しいことがあるわけで、なんで博打みたいなことをするのかという話だった。
私は他者からすれば面倒くさい存在になる、だからこの前みたいな進むことも戻ることもできない時間になってしまうかもしれないんだ。
「は? あんた喧嘩売ってんの?」
「怖い顔をしても無駄だから、だって結局恥ずかしくて好きな子とはいられない乙女ちゃんでしょ」
「帰る」
「気を付けてね」
「うるさいっ」
何故最初からそれを選べないのか、ゲームみたいにフラグが設定してあってブロックされてしまっているのだとしたら面倒くさいな。
なんらかのツールで全てを破壊、いきなり選べるようになっている人生なら少なくとも不安になることはなさそうだ。
「ふぁぁ……」
まだ三時間ぐらいは余裕があるから寝ていくことにする。
誰も来ないだろうから自宅みたいに寝られそうだった。
「早く起きて」
「ん……? あれ、帰ったんじゃなかったの?」
「いいから早くっ」
あと十分もあるのになにを焦っているのか、でも、出なければならないことには変わらないから荷物を持って教室をあとにした。
「さっき聡子から連絡がきたんだけど保香の調子が悪くなっちゃったみたいなんだ」
「え、あれだけ元気だったのに?」
「なんか無理をしていたみたい、だから早く帰ってあげてよ」
じゃない、なんで連絡がきたならすぐに行ってあげないんだ。
家族ということで私を求めている可能性はゼロじゃないけど多分彼女達よりは低いわけで、寧ろ弱っているときに他を優先していたということを知ることになる方がダメージを受けそうだった。
無意味とは言わないけどそこまで必要のないことを繰り返す彼女達にはどうすれば分かってもらえるのかな。
「言っておくけど上持さんも連れて行くからね? 私をわざわざ起こしたということはこういうことも覚悟済みだよね?」
「……それでいいから早く行ってあげて」
でも、お家に着いてすぐにお部屋に行っても寝ていて意味がなかった、なんなら島角さんも寝ていた。
起こすのも可哀想なのと、お水とかは持ってきたか持ってきてもらったようだったためすぐに出る。
「寝ていたよ、苦しそうな感じじゃなかったから明日には普通に元気だと思う」
「そうなんだ」
「ねえ、いまどきの子ってスマホを弄って過ごすんじゃないの? 島角さんも寝ちゃっていたんだけど」
携帯禁止の学校じゃないから休み時間になると弄って過ごす子はいる、お友達と会話をしているときでも弄っている子がいたから言ってみたけど「全員が全員そういうわけじゃないでしょ」と返されてしまった。
「そうなんだ、じゃあ暇かもしれないから行ってあげてよ」
「……私が行って悪化しても嫌だし、それに聡子だって寝ていたんでしょ」
「大丈夫だよ……って、勇気が出ないんだよね、私が連れて行ってあげる」
私もどうして最初からそうしておかなかったのかという話になってしまうね。
「また入るよー」
お部屋の数に余裕があるから別々のお部屋となっているものの、そうじゃないなら同じところで寝ることになってもこちらとしては問題もなかった。
寧ろ開けて入るという行動をしなくていい分、起こすのも楽でいい。
だけどやっぱり保香的には心休まらないだろうからおじさんが似たようなお家を契約してくれてよかったというやつだ。
学校近くのこんなお家、よく契約できたな。
「や、保香、大丈夫?」
「……起こさないの、さっき寝たばっかりなんだから」
「起きていたんだ、寝たふりとか趣味が悪いよ」
「保代がすぐに出て行くのが悪い、話しかける暇もなかったのよ」
そう言われても寝ているところをじーっと見ておく趣味もないから仕方がない、反応を確認してから入れよと言われてしまうかもしれないけど寝ていたならいつもああする。
「それでなんで保香は無理をしたと思う?」
「楓のためじゃない? その証拠に私とは行動していたわけなんだからさ」
「上持さんのためか、最近の保香ならありえそう」
「そういうのじゃないよ」
「「なんでそんなことが分かるの?」」
駄目だ、複数人でやると意固地になって帰ってしまうかもしれないから効率的とは言えない、保香が起きてくれるのが一番だけど会話をしていても起きる気配がないからとりあえず場所を移動することにした。
「へえ、あんたの部屋ってこんな感じなのね」
「荷物すっくな」
「寝るときとお勉強をするときぐらいしかいないからね」
「家でもなんか遠慮してそう」
「していないよ、保香とおじさんに遠慮をしてももったいないからね」
さて、連れてきたのはいいけどどうしよう。
私は彼女を自分のために連れてきたわけじゃないからここにいてもらったところでという話だった。
「あ、寝ておかないと駄目でしょ」
「……だってみんなでそっちに行っちゃうから、寂しいもん……」
「じゃあ渡高のベッドで寝なよ、その方が早く寝られるかもね」
「うん、そうしておく」
いやいや、保香が起きたなら向こうで過ごしてくれればいい。
別にこっちでやれることはないし、今回ばかりはお喋りを楽しむのも違うからそういうことになる。
でも、あくまでもうそういうことになっているみたいで保香は私のベッドに寝転んで笑っていた。
「そうだ、さっき考えていたんだけどクリスマス、もうこのメンバーで集まろうよ」
「私は別にいいけど」
「私も、みんなと過ごせるなら嬉しい」
三人がこちらを見てきたから驚いた、まさか私も含まれているとは思わなかった。
ただ、このまま参加するのは違うから首を振る、意外にも上持さんから「あんたなんで断っているの?」と聞かれたけど会いたい人がいるからと言っておいた。
前は結局実行できなかったから少し遠くまで歩こうと決めている、終業式が終わったらすぐに動き出せばかなりの時間をそのために使える。
みんなでわいわい盛り上がろうとしているところで私みたいなのがいたら水を差してしまうようなものだから避けたいんだ。
「私は絶対に参加させるから、逃げようとしても無駄だからね」
「それなら絶対に逃げるよ」
解散になった瞬間に学校をあとにしてそのまま移動を開始する。
一旦帰るなんて甘いことはしない、まあ、そのときにはもう忘れているはずだ。
「はいはいはい、なんでそんなばちばちしてんの」
「上持さんに言ってよ」
「こいつに言って」
島角さんが禁止にしたことによってここでその話は終わった。
後は三人でお喋りをしていたから余計なことを言う必要もなかった。
「はぁ、あんたまだ歩くつもりなの?」
「まだまだこんなものじゃないよ、言ったでしょ? 絶対に逃げるって」
付いてきたのは想定外だけど保香達のことを考えて折れたりはしない、文句も受け付けない、なにを言おうと勝手にこんなことをしている彼女の自業自得だ。
ただまあ、彼女がこういうときにこういう変な選択をすることは分かっているために違和感というのはなかった。
でも、それはそれこれはこれというやつでどんどん歩いて行く、他市に着こうがそこも関係ない。
「ねえ、昼間に解散になったのにもう暗いんだけど」
「そうだね。だけどそんなの関係ないよ、明日から冬休みなんだから真夜中になったっていいぐらいだよ」
彼女が途中で折れないならそのルートに入ることになる、だから自分のためにもここいらで帰っておくべきだった。
私だってこっちの土地に慣れているわけじゃないからなるべく曲がったりはしないようにしているけどこれからもそれができるかは分からない。
そう、何気に他市に入ったところから更に歩くということは私にとっても初めてなんだ、だからこれ以上やり続けると迷子になる可能性は普通にあった。
「なに意地張ってんの? 本当は保香や聡子と過ごしたいくせにこんなことをしていてさ」
「意地を張っているのは上持さんだよ、保香や島角さんと過ごしたいのにさ」
「聡子と比べたら保香が好きってだけだし」
「嘘つき」
仮に特別な感情がなかったとしても島角さんと保香に対する気持ちは同じぐらいだと思う、お付き合いをしたぐらいなのに簡単に超えたりするわけがない。
あんな話をしてくれていなかったら私は今日も彼女のために動けていたのにこれは島角さんのせいだ、もっとちゃんと見ておかないからこういうことになるんだ。
「はぁ……はぁ……」
「そろそろ諦めたらどう?」
「諦めない、少なくともあんたが一緒じゃないと帰らない……」
「じゃあもうこのまま二人で過ごそうか、私、最近で言えば上持さんと過ごしたかったんだよ」
これは嘘じゃない、勝手な話だけどこいつと言われた件が気になっていて島角さんと過ごしたいというそれはなくなっている。
だけど彼女は保香のことが好きで邪魔をしたくなかった、だからチャンスがあってもすぐに保香のところに連れて行った。
その時間で仲良くなれたのかは分からないものの、本当は一緒にいたいのに気持ちを抑えて一人で過ごすよりはよかったと思う。
「なんてね」
「あんた意地を張らずに――ぎゃっ」
「だ、大丈夫っ?」
まさか転ぶとは、そんなに歩いたわけじゃないんだけどな。
無視をすればいいのに無視ができなくて付き合っていた結果、まだこんなところにいる。
「……ふっ、結局あんたはあんたのままなんだよ」
「え? あ、うん、私は私だからね」
彼女は差し出したこちらの手を掴んで立ち上がってから「もう離さない、あともう帰りたい……」と格好いいような情けない感じのことを言った。
「んー、このまま言うことを聞いて帰ることにしたら逃げきれたってことになる?」
「それはならないでしょ」
「じゃあ駄目だね」
このまま大人しく帰ったら結局〇〇云々と笑われる、こちらにも意地があるんだ。
笑われるぐらいなら真夜中まで歩いて風邪を引くことになった方がいい、仮にそれで笑われても目的を達成したうえでのことだから恥ずかしいことには該当しない。
「えっ、ちょっと、相手を間違えているよ?」
「帰ろ、保代」
「わ、私にそういうことを求めても保香みたいにはなれないよ」
「いいから、言うことを聞いてくれるまで離さないから」
って、意識を向けてみたら熱いことに気づいた。
はぁ、なんで最近の子はこうなんだ、私だって調子が悪いときに敢えて外に長くいたりなんかはしないぞ。
「え、でも、保香が風邪を引いた日からはそれなりに経っているしなぁ」
「……毎日お風呂でどうするかを考えていたの、大体三時間ぐらいだったかな」
「お、お馬鹿さんなの?」
追い炊きなんかをしていればそれでもなんとかなりそうだけどどうせこの感じだとお風呂から出た後も意味のないことを続けていそうだった。
多分保香でも同じように言う、それで弱っていたらあほらしい。
本命を振り向かせるために、クリスマスという大きなイベントで本命と過ごすためならいいんだけどそうじゃないんだからね。
「あんたに言われたくない、どうせ悪い空気にしてしまうかもしれないということで断ったんでしょ」
「違うよ、こっちの市に会いたい親戚の人が――」
「あんたが落ち着いていられるのはあのおじさんだけでしょ」
「おじさんのお母さんとは普通に話せるけどね」
「嘘だね、偽物の笑みを張り付けて早く終わってほしいと胸中で願いつつ相手をするしかないんだよ」
くそう、調子が悪いなら普通は弱ったりしそうなところなのにいつも通り言葉で苛めてくる。
もうこのまま置いていってやろうか! とむかついたけど流石にそんなことはできないというやつで背負って黙って歩いていた。
赤信号で止まる度に何故かぎゅっと力強く抱き着いてきてそこまで私に不満があるのか! と叫びたくなったものの、何回も繰り返される度にそうじゃないと分かってそれもやめた。
で、結局お家に着いたのは昔と同じで二十一時頃、彼女のお家に送るつもりだったのになにも言ってこなかったからそのまま連れてきてしまった形になる。
「遅いわよ」
「この子が問題児でね」
「寝てんの? いや、まさか調子が悪いの?」
「うん、だからそこにお布団を敷いてちゃんと寝させるよ」
保香はいまお風呂に入っているみたいだったから丁度よかった、流石に今日の二人の相手を私だけでするのは辛いからそういうことになる。
「……あれ」
「下ろすよ」
「うん……」
調子が悪いのに無理をしたのが影響したのか特になにかを言ってきたりすることもなくすぐに寝始めた、途中からこうだったから少し寂しかったかな。
「今日のこれはあんたのせいよね?」
「私は元々一緒に過ごすつもりはなかったよ」
「はぁ、まあ保香が付き合ってくれただけまだましだと思った方がいいか」
彼女は彼女に任せて廊下に出る、保香がその丁度同じようなタイミングで出てきたからただいまと言っておいた。
でも、ぷいと違う方を向いて歩いて行ってしまったから笑うしかなかった。
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