6

ずっと手に入れたかったものが

目の前に現れてしまった時、

理性で欲求を抑えられる人間は

どれくらい居るんだろう。


ましてや、二度と目にすることすら

叶わないと思っていたものが、

何の予告もなく目の前に現れてしまったら。


彼女にとっての幼い彼女は、

まさにその類いだった。


長い時間をぼんやりと扉を眺めて

過ごした彼女は、やがて扉に手を伸ばした。

直接触れたくて、襲いかかるも同然に

迫って行った。


しかし彼女の手は木製の扉を撫でるだけで

幼い自分の立体を掴むことは無かった。

扉はどこまでいっても扉で、

平坦な表面の、たまに僅かな傷の凹凸が

確認できるだけだった。


夜が来て、朝になっても

扉の中の少女はそこにいた。

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理想の子 黒田 愛実 @mamaminig

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