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子供でも分かるような大手老舗メーカー企業で

事務の仕事を兼ねながら受付の仕事をする。

来客があればキーボードを叩く手を止め

精一杯の愛想で担当を呼び出し、

来客が無い時は何に使うのかもよく分からない

データを言われた通りに表計算ソフトへ

打ち込んでいく。

彼女の平日五日間はそれだけで過ぎていく。


居眠りしながらでも出来そうな仕事に

同職種より少しだけ高い給料。

やりがいは皆無だが、

彼女は不満に思うことも無かった。


そもそも彼女には、仕事での充実感や

眩しく輝いたプライベートというものに対して

全く関心がなかった。


彼女にとっては、10歳の自分の容姿こそが

渇望であり、

手にすることの出来ない理想である。

そして、それらはこれまで、

彼女が大切にしている運動会やら

ピアノの発表会やらの写真の中にしか

ないものであった。


彼女の、色あせた写真を毎日眺めながら

退屈そうに仕事場へ向かう生活は、

彼女の部屋に、

あの日の自分が現れたことによって

崩壊した。

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