第36話 とめられない
「いやあ、どうして俺がゴモン達を鍛えていたのかがわかったんだろうって思ったんだよな。 今回の件を聞いてなるほどって思ったよ」
白魔道士は事情を聞き、うなずく。
「つまり、先手を打ってきたということですか。 拒否して逃げれば反抗の意志あり、危険分子として罪人に。 交流戦をうければ徹底的に負かし、もしこちらが勝ってもそれも危険分子と理由付けて監獄へ......ということですか」
ああ、そっか。なるほどね。
「そこまで深く考えて無かったよ」
「......?」
「だって殺せばさ、手っ取り早いでしょ? 奴らの目的は隠蔽なんだから。 死人に口無しさ」
「まさか......交流戦で事故に見せかけて?」
「だと思ったんだけど。 だから今回は怪我を負わせて見逃したんでしょ?」
狡賢い奴らだよな。その場で殺せばイメージが悪くなるから、交流戦という場に持ち越し殺す。
「んで、どーするよ。 これはゴモン、お前らが売られたケンカだ......決めるのはお前達。 少し時間も必要だろ。 決まったらいえよ」
しかし、俺は一瞬にして理解した。いや、彼の瞳を見たときに理解させられたと言えばただしいか。その燃えるような眼差しは闘志の塊だった。
「......ノワル。 俺達は皆、この見回りを始めた時に覚悟を決めた」
......まるで別人だな。
「あるものは魔族に親を殺され......あるものは恋人を亡くした。 生きる理由を失った俺達は、あんたに力を与えられまたこの街の人間を守るという理由を貰ったんだ......やるぜ。 それで公に、認められるっていうなら!! きっと皆そういう!!」
出会った頃とは別人。命を背負戦う男の顔だ。
「わかった。 けど、皆には伝えとけよ。 これは命の危険が伴う戦いだと」
「......勿論」
フッと白魔道士の治療に当てていたエネルギーが消える。
「これでよし。 治療終わりました」
「ありがとう、ミナトさん」
「いえ」
ゆっくりと腰をあげ、俺を一瞥する。
「駆けつけてくれてありがとうな、ノワル。 あんたがこなけりゃもっと手酷くやられてたぜ。 ホントに......救世主みたいな奴だよ、あんたは」
ニイっと笑うゴモン。
「気にするな。 たまたまさ」
ゴモンと別れた後、白魔道士は不安げにいう。
「ゴモンさん......メンバーの二人を逃して一人で耐えていたんですね」
「みたいだな。 あいつらしいけど」
「あの怪我......ノワルが駆けつけなければ彼はあれだけでは済みませんでした」
「だなー。 もう少し痛い目みてたかもな」
「......」
ん、あれ?と、白魔道士をみればこちらをジッと見つめていた。ともすれば睨んでいるようにも見える。
「怒ってるのか?」
「......ノワル、交流戦の件、なんで止めなかったんです? 戦っていた現場を見たんですよね?」
治療をしていた左手をじっと眺める白魔道士。その手は微かに震えていた。
「......怪我の具合から、ゴモンさんは何もさせてもらえず、一方的に痛めつけられていたように見てとれました。 ......そんな、実力差のある相手とまともに戦えるとは私には思えません。 お願いします、今からでも、ノワルが言えば」
「でも、それだと何も解決しない。 聞いてただろ? あいつはこの街の人間が大切で仕方ないんだ。 止まらないさ」
......止められないさ、あの想いは。
◆◇◆◇◆◇
「上手くやりましたね、ガミラーヌ隊長」
そう呼ばれた男は鼻を鳴らし、エールを勢いよくあおる。
「ああ。 あの薄汚えチンピラが......いっちょ前に何が王都の治安を守るだ。 笑わせるぜ」
隣にいる大男が頷く。
「そうだな。 それは我々の仕事であり奴らには務まらぬ」
「表は聖騎士の俺、ガミラーヌが」
「裏は闇ギルドの俺、ドガランブが」
カツンと二人が打ち鳴らしたエールのジョッキ。
彼らは十数年前、この王都のスラムで出会った。ガミラーヌが知らずに手にいれた彼らの商品であり奴隷の娼婦。それはドガランブの罠であり、そこから二人の戦争が勃発。
やがてドガランブからの提案で、自分らの裏の仕事を見逃して貰うかわりに、ガミラーヌらに上納金や奴隷等の商品を献上するという取引を交わし、今にいたる。
それからの東区はスラム街と化した。
王都内外問わず、闇商人や奴隷商、罪人達が集まり今の無法地帯の東区を形成した。
逃げる力のある住民は消え、残されたのは孤児や老人。
彼らは人知れず搾取され続けていた。
「せっかく築き上げた俺らの楽園。 邪魔するやつらはしっかり消さねえとな?」
「だな! こんどの交流戦、頼むぜガミラーヌ。 しっかり口封じしてくれよ」
「ああ、任せろ。 ただし、わかってんだろーな?」
「あん?」
「約束を覚えてるんだろーな?」
「あ、ああ。 この間捕まえてきたガキどもか! 北区の孤児院の」
「そーだ。 そいつら寄越せよ?」
「はっはっは、相変わらずの性癖だなぁ、おまえ! いいぜ沢山やるからいくらでもいたぶって壊せよ!!」
ガミラーヌの広角がニィっとあがり、邪悪な笑みが溢れる。
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