第33話 協力

 

「すみません」


「ん?」


 俺はティラナに頭を下げた。


「あ、いや。 鬼族の封印結界......解きにいくっていっておいて」


 俺が言い出した話なのに。こんなゴモン達の鍛錬で時間を使ってしまって。


 本当なら一刻も早く一族の皆を助けたいだろうに。


 そう思っていたら意外な反応を彼女は返してきた。


「え、全然いいし。 ノワルのペースで大丈夫だよ」


 え?


「怒ってないのか?」


「なんで!?」


「いや、だって......早く助けに行ってやりたいだろ」


「! ああ......まあ、そうだね。 でもこれも必要な事でしょう?」


 にこっと笑うティラナ。


「えっ」


「人と、魔物を......繋ぐための。 掟をまもるためにも人との友好関係を大切にしなきゃね」


「......ああ、うん」


 色々と、しっかり考えてるんだな。ティラナも。


「だから、ノワルが申し訳なさそうにする必要ないよ?」


 それでも.....故郷に封じられている家族が心配だろうに。


「ありがとう」


 必ず封印は俺が解くから。だから、少しだけ待ってくれ。


「だーから、ノワルは悪くないでしょ〜。 まったくもう......うりうり」


 彼女は俺を抱きしめ頬擦りを開始した。しかし俺にそれを止める術は無い。


 歩み寄る手段は言葉だけじゃないのだ。


「えへへっ、ノワルぷにぷに〜っ! やわらか~い!」


「まあ、スライムですからねえ」


 こいつら......ゴモン達はゴゴアラとの戦いで観察した結果、特に戦闘センスが無い訳じゃ無い事に気がついた。


 攻撃がきても目をそらさない、緊張や恐怖に体が硬直するというのも無い。


 だからこそ今まで死なずに来れたのかもしれない。最低限の戦い方。おそらくはぎりぎりの戦いを続け、運がよくここまで生き残ってきたんだ。


(......しかし今日ゴゴアラと戦ったことでこれじゃあダメだと理解したはずだ)


「ティラナから見て、あいつらの足りない所ってドコだと思う?」


「!」


 キョトンとした表情を浮かべるティラナ。やがてゴモン達をじーっと観察し、人差し指を唇にあてながらこう言った。


「んー、全部かな?」


 ですよねー。まあ、戦闘民族からすればそうだろうね。聞いた相手間違えたか。


 しかし、彼女の言葉はそこで終わらず、こう続く。


「特に魔力操作かな。 拙い通り越して、あれだと魔力無しで戦ってるのと同じだよね」


「!」


「ゴゴアラの攻撃......ってか、全ての戦闘において攻撃には魔力が宿ってるからさ、それを瞬時に反応してガードをすることが出来なければ致命傷になる。 あの人たちにはそれが出来てないから、ゴゴアラの一撃で瀕死になってたんだよね」


「へえ。 興味なさそうにみえてちゃんと奴らの戦いを見ていたんだな」


「まあねえ。 えへへ」


 戦いの才能に恵まれただけの鬼じゃない。誰かの戦いをみてしっかり分析することができる。それも視点を変えて、その要因を探る力があり、どうすれば良いかの答えを出せる。


「なあ、ティラナも助けてくれないか?」


「? ......助ける?」


 彼女にも魔物と人の繋がりをつくることを手伝ってほしい。これは鬼の一族にとっても大きな財産になるはずだ。


「彼らの戦闘訓練。 一ヶ月で、聖騎士と同等に......できるだろ? ティラナなら」


 えっ、と眉をひそめたティラナ。「んー」と可愛らしく悩んだあと、彼女は蕾の綻んだような笑みを浮かべた。


「いいよ」


 俺の意図を組んでくれたんだろう。頭のいい子だな。


 しかし、なにはともあれこれで安心だ。ティラナだけに任せるつもりは無いが、これで効率的に訓練を進めることができる。


 俺が『初心者レベル組』でティラナが『上級者レベル組』と組分けし、進めていく。よし、これで約一ヶ月で旅立てる。


 つーかこれよくよく考えれば白魔道士のお願いでやってることなんよな。別にいいけども。


「ありがとうな、ティラナ。 これで予定より早めに旅に出られる」


「デート一回、だね」


「ん?」


「成功報酬、デート一回......どう?」


 ティラナはにっこりと微笑む。


「......な、なるほど」


「いいよね、ノワル」


 くりくりとした目を煌めかせ、透き通るような笑みをみせる。改めて認識するその美貌に心を奪われかけながらも、俺は断れるわけのない申し出をノータイムで返答した。


「あ、はい、それでお願いします」


 ぎゅ、とよりいっそうの温もりに包み込まれる。




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