第32話 開始

 


「お前らのその想いが本物なら、俺が鍛えてやるよ」


 あの頃の自分が成し得なかったこと。自分の力で仲間を、家族を守る。


「......ほ、本当か......ノワル!?」「!」


「ああ。 けど、やるならかなりキツい修練になるぜ? それこそ死にたくなるようなさ」


 まあ......この二人の目を見れば聞くまでも無いかな。


「やる、やるぜ......! 頼む、ノワル......このレイドで死なせてしまった奴らのぶんまで......命を捧げる!」


 頷くバーラ。しかし俺は笑みを浮かべ首を横にふる。


「え?」


 不思議そうな顔のゴモンとバーラ。しかしその謎はすぐに解けた。


「ゴモン、バーラ!」


 振り向く二人の目に飛び込んだのは。


「え、お、お前ら......なんで」


 無傷のレイドメンバーだった。全員、俺と白魔道士でヒールしたった!


「まさか、これは......これもノワルが!?」


「いんや。 正しくは俺と白魔道士が、だ。 ヒールもできるから安心して怪我しまくれよ。 死ぬ気でやるって言葉が本当ならな」


「ああ、勿論だ!」


 その時、レイドメンバーからも声が上がる。


「ノワルさん、それ俺達にもお願いできませんか?」


「おー、いいぜ」


 ゴモンが慌てて話を遮る。


「ちょ、ちょっとまてよ......なんでお前らまで......命がけなんだぞ!? そんな死ぬ思いして、お前らになんの得があるんだよ......!?」


 レイドメンバーが微笑む。


「損得じゃないさ......ゴモン、あんたの想いを皆きいたんだ。 正直、俺らの実力でその鍛錬についていけるかはわからないが、この場の全員あんたに心を動かされちまったんだよ......この想いは止められねえ。 なんと言われようと俺等もついてくぜ。 ゴモン、バーラ......あんたら二人に」


「......お前ら」


 うん......また守る物が出来た。こうしてひとつふたつ、大きくなる力は必ず死を前にしたとしても踏ん張れる力になる。


 命を賭した戦いでは重要なモノ......誰かを守りたいという想いが。


 これがあるのとないのじゃ成長速度は違うからな。イイネ!


「よし、そんじゃこれから走ろうかね」


「「「!?」」」


 一斉に皆がこちらに振り向く。


「なに驚いてんだよ。 今日はもう終わりだとでもいうと思ったか?」


「い、いや、思ってないです......」


 ゴモンが苦笑いを浮かべた。


「良いこと教えてやるよ。 お前らは絶対的に弱い。 弱すぎる。 魔物のレートでいうならせいぜいFとかだろうよ。 そんなお前らに休んどる暇なんてねえ」


 あたりめーだよなァ!?


 無言になる皆。


「つーわけで、おらぁ!!」


 場にいる全員に淡い緑の光が灯る。


「こ、これは......疲労感が消えて......」


「いえ、それだけじゃないわ......これならまたいくらでも戦えそうな」


「体力回復の魔法だ。 これでいくらでも鍛錬できるね!」


【心身福寿《アルヒール》】


 まあ、俺の魔力を奴らに適した生命力変化させてぶちこんだだけなんだけどね!はっはっは!


「そんじゃいくぜ。 俺の後をついてこいよ」


「「「はい!」」」


 基礎だ。こいつらにはとにかく基礎を全て叩き込む。まずは体力......これがなければ何もできない。


「あ、白魔道士とティラナは宿帰っててもいいぜ」


「いえ、ついていきます」「宿戻っても暇だしね〜」


「そっか。 んじゃいくぞー」


 この後、日が暮れ月が天高く登るまで俺達は走り続けた。深夜になり危うく王都の門が閉められ野宿するところだった。



 ......あれ、なんかわすれてるような。




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