第27話 助け

 


「んん......あっ」


 朝、目が覚める。ベッドの上、目を擦りながらぼんやりと両脇にいる白魔道士とティラナをみおろした。


(......男の人型で寝てしまった......)


 疲労感。人間や他の生物の形をとるのは魔力を消費し続ける。それは複雑な物になればなるほど消費量が多く、元の肉体への影響も大きい。


 まあ、とはいえ俺の魔力はほぼ無尽蔵なんだが。これは気持ちの問題だと思うけど、疲労がかさむと肩がこるような感覚がする。それが嫌なんだよな。


「おはようございます......ノワル」


 寝癖をぴょこぴょこさせ白魔道士が身を起こす。


「おお、おはよう」


 窓の外から陽射しが伸び、照らされた彼女の白髪が美しく輝く。


「まだゆっくりしてていいぞ」


「ありがとうございます......」


 そういうとベッドから立ち上がり洗面所の方へふらふら歩いていった。どうやら彼女は朝が苦手らしいな。それとも薬の影響がまだあるのか?


「ノーワルッ」


 突然耳元で囁く声。


「......びっくりした」


「えへへっ、おはよ〜」


 声の主は言うまでもなくティラナ。


「おはよう。 反射で危なく首落とすとこだった」


「いや怖っ!!?」


 体に染み込む殺しの技術。不意を突かれると反射的にでそうになるそれを無理矢理反射で止める。


「むぐ」


 ティラナがぎゅうううっと俺を背中に抱きつく。


「えへへ、あったかーい」


「......」


 なんか、この子スキンシップ多くない?白魔道士が不機嫌になったら困るんだけど。......脱出!


 人型を解除、スライム型へ。瞬時に変わる肉体。するりと彼女腕を抜けた。


「あっ、あーっ! なんで逃げるのーっ」


「はっはっは」




 ◆♢◆♢◆♢



 そうして朝食をとり、出立の準備を終え、宿のカウンターへ。すると何やら宿の店主と客が揉めている様子だった。


「......で、ですから、私共の店ではそういう申し出はお受けしておりませんので」


 困った様子の店主に詰め寄っているのは、大きな剣を背負う大男。そしてその隣に仲間であろう細身の魔術師のような出で立ちの女。


「そんなこと言うなよ。 俺達二人がこの宿のケツモチ......つまり用心棒になれば、今後安泰だぜ?」


「そうよ。 私達はハンター。 その昔、魔王を勇者達と共に討ち取ったレイドメンバーだったんだからさ」


「しかし王都には魔物は侵入できませんので......」


「おや、知らないらしい。 最近王都に鬼が侵入したんだぜ?」


「お、鬼が?」


「ええ。 とっても危険、レートはSS以上のこわーい鬼よ」


「国は隠そうとしているが、目撃者や噂がものすごい数飛び交っているぜ? 酒場でもいって聞いてみなよ」


「......!」


 なるほど。こいつらあれか、昨日の魔族が王都攻め込んできた件にかこつけて美味しい思いをしようと。


 用心棒とかいってるけど、纏う魔力や立ち姿からして全然実力不足な感じだが。


 まあ、奴らも奴らで生きるのに必死ってことか。やってることはあれだけど。


 そんな事を考えていると、二人組のハンターは「また夕方にでもくる」と言い、店を後にした。


「ケツモチ......とはなんでしょう?」


 白魔道士は知らないようで俺に聞いてきた。


「まあ、要するに争いごとになった時にそれを解決するやつのことさ。 強いケツモチがいれば難癖つけられたり揉め事に巻き込まれないようになったりする」


「でしたら宿の店主様もお頼みになられたらよいのではないですか? 魔族の襲撃も実際にあった事ですし」


「まあ、それはそうだけど」


 不思議そうに俺を見る白魔道士。


「しっかりと仕事してくれるならなって話。 あいつら見た感じたいした強くないし戦えないよ。 多分、金だけむしりとっていざ有事の際にはトンズラしようって感じなんじゃねえのかな」


 ティラナも頷く。


「私達の故郷にもああいうのはいたよ。 いいだけ飲み食いして豪遊して、いざ勇者が近くに来たとなったらすぐに逃げる......あいつらもそんな匂いがする。 詐欺師のような」


「なるほど。 そんな人たちがいるんですね......では店主さんには忠告だけでも」


「いや。 そんなことは店主も百も承知のはず」


「え?」


 白魔道士は眉間にしわを寄せ、「?」を浮かべた。


「では、なぜ先程しっかりとお断りしなかったのですか?」


「それはあのハンター二人組が断りにくい輩だったからやんじゃねえの? 知らないけど......とにかくもう行こうぜ」


 なんか流れが怪しい。面倒にならない内に早く出た方がいいなこれは。


「あの、ノワル」


「ん?」


「これって、魔族が攻めてきたから発生している問題ですよね?」


 あー、やっぱり。


「んー、どうかなあ。 こういうのって前々からあったと思うけどね」


「けれど、今は昨日の魔族襲撃の話でした......」


 くっ。


「店主様を助けていただけませんか?」


 ですよねー!




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