第25話 みはて
王は頭を下げる。家臣や聖騎士が多く場にいる中、本来であればそれは正しいとはいえない行為だったはず。
しかし、少なくとも王都に住む多くの人の命を救ったとして、俺に礼を尽くす彼の姿に少し心が揺れた感じがした。
「ノワル。 改めて......今回の件は君がいなければ、最悪の結末を迎えていただろう。 本当にありがとう」
「いんや、いいさ。 まあ、俺達魔物側の読みが甘かったのも原因だしな。 すまん」
首を横に振る王は、「それでも、誰も命を失っていない。 ありがとう」と、そう言った。
まあ、それはそれとして。これからの事を話し合おう。
「さて、これから俺と白魔道士は鬼の故郷へ向かおうと思う。 それで何だが、鬼の誰か......案内役を頼みたいんだけど、誰か借りられない?」
「はーいっ!!」
ビシッと見事な挙手を見せた鬼が一人。あ、こいつ、ここに来て一番最初に戦ったやつだ。
こんなに快く手を上げてくれるとは......良い奴なのかもな。
「おっ。 お前が案内してくれるの?」
「うんっ、案内する! 私を連れて行って!」
ちらりとゼノを見ると目が合い、静かに頷いた。
なるほど了承済みと。しかしえらい元気の良い奴だな。
大人しい白魔道士とは正反対の性格だ......ん、そういや名前しらないな。
「ちなみにお前、名前は?」
「ティラナだよ! よろしくねっ!」
いや、待って......なんかキャラ変わってね?さっきこんな天真爛漫な感じだったっけ?
「ど、どうした? お前、さっき戦った時は、もっと冷徹な感じだったよね?」
ゼノがいう。
「懐いたんだろう。 ティラナは強いやつが何より好きだからな......お前と戦い、天地ほどもある実力差に心を奪われたのだ。 責任持って連れて行ってくれ」
懐いたのか、これ!テイムしちまったかあ!
にしても別人レベルなんだけど......にこにこしてて可愛いのは良いのだけれど、怖い。ギャップが怖い。
ん?つーか.......
「責任持って?」
不穏な何かを感じ、ゼノへと聞き返す。するとティラナが腕に抱きついてきて耳元でこう囁く。
「決闘で私の事、倒したからね。 それって、私を妻として迎えてくれたって事なんだよ......鬼一族のシキタリってやつではさ」
「は、え......は!?」
何を言ってるのか、わからない!(わかりたくない)
「大丈夫、ノワル。 私に任せて!」
「なにを!?」
「ちゃんと頑張る、頑張って......強い鬼の子をつくろう! あなたとの子供なら、必ず最強の魔物になるよ!」
「話を勝手に進めるな!! ちょ、チェンジできねえ!? ゼノ、誰か他の......」
助けを求めると、ゼノは目を合わせてはくれなかった。
「......すまん」
はっ!そういうことかッッ!!
最初からこれが......俺の遺伝子を狙って!?転んでもただでは起きない精神!!
そのシキタリとやらも本当に存在するのかも怪しい!!
その時、どこかしらか刺すような視線を感じた。
――はっ!?
振り返ればそこには冷たい笑みを浮かべる白魔道士が。
(こっわ!! なにその笑顔!?)
しかし、どこか懐かしい。この笑顔、確か俺は以前にも見たことがある気がする。
いつだ......この目だけで射殺せそうな、冷徹な眼差しは。
――その時、苦し紛れに瞑った瞼の裏に、懐かしい笑みが映る。
あ、これ......昔、俺に浮気疑惑が浮上したときの妻の目だ。
「白魔道士、さん? ど、どうしました?」
「いいえ、なにも。 良かったですね? お綺麗な妻を迎えられて」
(か、こ、こええ......なんじゃこの圧は)
「あはっ、お綺麗だってさ! 褒められちゃったよ、ノワル。 でも大丈夫、慢心はしない......もっともっと、あなたに見合うように、綺麗になるからねっ」
綺麗と言われ、ご満悦なティラナ。
いや、ちょ、言うてる場合かっ!!
「いやいや、俺いるし! 妻もういるし!」
そうだ、今はもう亡くなってるが俺には愛する妻であるリーナというスライムがいたんだ。だからティラナとはツガイにはなれない。
薄れてしまった記憶......だが、今でも俺は家族を愛している。
キョトンとした顔のティラナは、小さくウンと頷いた。
「......大丈夫、私、二番目でも良いよ。 ノワルなら、我慢できるから」
うーん、この。
「よかったですね、二番目ですか。 じゃあ私は三番目にでもしてもらいますかねぇ。 ふふっ」
白魔道士は生気のない瞳でニコリと笑う。
いや、え?この子さっきからおかしくない?こわいこわい......こわいよぅ。
「あー、もうやめえ! その話めてっ! とにかく、三人で鬼の故郷に向かうけど、ティラナはその話もうしないこと! わかった?」
「はーい!」
絶対こいつ返事だけは良いタイプだろ......。
そんな事を思いジト目でティラナを睨んでいると、ゼノが口を開いた。
「ところでノワル。 お前は我らに枷をつけると言っていたが、具体的にはどうするのだ?」
「ん? ああ、枷......とりあえずは人との接触は避けてもらう。 つまりは日中人目につく時間帯は街を歩かないでくれって事だな。 さすがに街で暴れ回った鬼がフツーに歩いていたら人々も気が休まらないからさ。 ......まあ、そんくらいか? あとは王と聖騎士達ででも決めてくれ」
「まあ、それはそうだが」
「? なにか不満そうだな......わりと緩くしてるんだが」
「それだよ。 俺達はいわば侵略者だぞ? 魔法なりなんなりで力を削いだり、人に逆らえないようにしなくて良いのか?」
「ああ、なるほどな。 いや、俺はお前らを信用してるし」
「信用......」
「お前らの一族を助けたいという想いはわかるし、そこに嘘は無いと判断した」
彼らは理由も無しに人を襲うようなまねはしないと、俺はリーダーのゼノを見て思った。目的の為なら手段を選ばない奴だけど、それだけ一族が大切だったんだろう。
俺も里を救えるなら同じことをしたかもしれないからな。気持ちがわかる。
街で暴れていた奴らも血の気は多いが、多分同じだ。だからもう大丈夫なはず。
「それにティラナがいる。 鬼の一族は絆が強く仲間想いだと聞く。 そんなお前らがティラナを同行者として出してるんだ。 人を襲うつもりなら、なんだかんだで俺にティラナを預けないだろう」
つーか人を襲わない縛りとかしたら、もし人間で王都に攻め入ってくるやつがいたら役に立たないやんけ。
それと同じく力削ぐとかも同じ理由で却下。
「俺がお前ら鬼を助けるからさ、お前らは人を助けてくれよ」
「ああ。 ......わかった」
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