第24話 権能


 真顔のゼノと白魔道士、それと話を聞いていた王や鬼達、聖騎士長が真顔でこちらを見る。


 ゼノが顎に手を当て俺に聞く。


「......勇者の結界は解除できないのでは?」


「ん? ああ、正攻法ではおそらく無理だろうな」


 ゼノは白魔道士と、王は聖騎士長と顔を見合わせる。鬼は鬼でざわつき、時折、あのスライム頭おかしいんじゃね?と聞こえてくる。おまえら顔覚えたからな。


「俺は権能持ちだからな。 おそらく結界ならなんとかなる」


「「権能!?」」


 ゼノと白魔道士が同時に声を荒らげた。そして後ろの聖騎士長も驚き、口をひらく。


「......そんな、あのスライムが、権能を所持しているだと!?」


 疑問に思う王が聖騎士長へと問いかけた。


「権能とは、なんだ?」


「......権能とは、選ばれた魔物のみに与えられる神の如き力の事です。 権能は全てで七つあるとされ、勇者に討伐された魔王も権能持ちだと記録されております」


「神の如き......」


 そう、権能とは七つ有り、魔物に宿る能力。


【嫉妬】【暴食】【強欲】【傲慢】【色欲】【怠惰】【憤怒】いずれも使いこなせれば文字通り神の如き力を発揮する。


 前魔王の持っていた権能は【強欲】で、俺の力は【暴食】だ。


「まあ、そんなわけだから俺に任せろよ」


「......良いのか」


「ああ、良いよ。 お前らの気持ちはわかるから。 ただし、タダって訳にはいかねえけどな」


「交換条件ということか?」


「ああ」


「あの場所が......俺達の帰る故郷が戻るなら、何でもしよう」


「おっけ。 それじゃあ、俺がお前らの故郷の結界を解放して戻るまで、この王都を護っててくれない?」


 目を見開くゼノ。鬼達が更にざわめく。


「我らが王都の守護? それは無理だ」


「え、おい、何でもっていったじゃん!?」


「いや、我らは王都の人間を殺したのだぞ? そんな魔物が王都にいることなど人が許しはしないだろう」


「え? 誰も死んでねえけど」


「いや、現にここの兵士や騎士は......は?」


 ゼノと鬼達があたりを見回し啞然とする。いつの間にか殺した人間が元に戻り、横たわっている。


「これは......白魔道士、おまえが?」


「いいえ。 ノワルですよ」


「ま、まさかお前......」


「いやあ、間に合ってよかったよ。 あと二時間遅かったら俺のヒールでもダメだった」


「俺達と戦いながら治癒魔法を使っていたのか!!?」


 押し広げた魔力。結界となったその中で、ゼノ達と戦いつつ俺はヒールを密かに使い人間を治していた。


 ちなみに俺が人の形になれるように人の体......つまり臓器や骨を再現することも出来る。


「はっはっは。 ちなみに別働隊は三つとも全て潰してあるし、被害にあった奴らも皆俺と白魔道士のヒールで治してあるから誰も死んでねーぞ。 あ、ただ罰として鬼達は皆ボコしてからヒールして寝かしてあるけどな」


「......これが、勇者を倒した......スライムか」


「はっはっは。 つーわけで、人間の王様」


「......む」


「こいつらに王都の護りを任せても良いか? 俺ほどではないけど鬼達もかなりの強さだから、そこの聖騎士達と組ませれば大抵の魔物は退けられる。 勿論、人に危害を加えられないよう枷はつけるからさ」


「なぜ、魔物のお前がそこまで......」


「一応、危害を加えられない限りは魔物達の間でもう人とは争わないと決めたんだ。 魔物と人の平和......憎しみの連鎖を止めたい」


「......勇者達が魔物にしたことは知っている。 その上での話か?」


「ああ、そうだ」


 王は遠い目をして「そうか」と呟いた。


「大きな力はその精神を蝕む。 彼ら勇者達も例外ではなくその力に呑まれてしまった」


「ああ、酷いものだったな。 口にするのもおぞましい所業......あいつらは愉しむ為だけにその強大な力に物言わせ魔物を狩っていた」


「......すまない。 無意味な争いを行っている事実、それは調査で知ってはいたんだ。 あやつらを止められなかった責任は王であり、魔王討伐を任命したわしにある。 平和をもたらすためならば、この首を捧げるが......」


「捧げてどうする? そんなんじゃ被害にあった魔物の気なんておさまらないぞ」


「うむ......しかし」


「そもそも勇者が現れる前は魔物だって人に危害を与えていたんだ。 だからもう仕方ないことさ。 それに大事なのはこれからだろ?」


「......そうじゃな」


「あんたは少しでも長く生きて、魔物と人間との平和の実現に尽力してくれよ。 それが加害者であり被害者の成すべき事だと思うぜ」


「ああ、わかった......この命の限り」


 白魔道士の顔を見ると、微笑んでいた。


 魔族の英雄。この先の人との関わり合いが重要であり、そこに何を残すか......その果にあるのが、おそらくは英雄というものなのだ。


 俺も......この命の限り。


 ――ふと、懐かしい影が閉じた瞼の裏に映る。


(悪いな、まだお前達に会いに行けそうもないよ。 でも、そのかわりに必ず......俺がこの因果の鎖を砕いて見せる)


 こうして魔物による王都襲撃は終わりを迎えた。






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