第23話 返し
ドウッッ!!!
――ゼノは巨大な大剣を背から抜き、そのまま振り下ろす。
俺はそれを刀で受け流し、斬撃を床へ落とした。
初撃を躱されたゼノ、次に繰り出された攻撃は蹴りだった。その勢いのまま回し蹴りが放たれ、俺の脇腹を直撃した。
思わず俺は慌てた。
「あっ、やべ!!」
――ドゴッ!!という轟音が鳴り、その衝撃で壁が砕けた。
「な、んだと!?」
俺の体に蹴りを当てたままゼノは止まっていた。
「......今の蹴りを......無傷で」
おそらくは今の蹴りで俺の体を真っ二つに出来ると思ったんだろうな。かなりの魔力を込めた蹴りだったから、多分剣撃は囮でこっちが本命......それが直撃して勝ちを確信したのか。
つーか、やっちまった......衝撃波で部屋めちゃくちゃじゃん。攻撃、うけ方ミスったぁ〜。
「な、なあ、やっぱりもうやめない? ちょっと被害やばいことにならないか」
掟で人間に危害を加えてはならないって決めたんだよな。言い出した俺がこんだけ城内壊したら説得力ねえじゃん。
まあ、正しくは俺が壊した訳じゃないんだが。
それでも人に魔物の悪いイメージがつくのはまずい。(今更ですが)
「知ったことかッ!!」
ゼノが更に拳を振り下ろす。
――げっ!!これもとんでも無い魔力を込めてやがるッ!!
仕方ねえ、飲み込むか。
――ズンッ!!
両腕を交差し拳を受け止める。しかし先程とは違い、床が破壊される事もなく、完全にガードが成功する。
「!? 俺の魔力が......打ち消された!?」
「ちげーよ、衝撃と魔力を俺の体で吸収したの」
「吸収!?」
「吐き出す事も出来るぜ?」
ゼノの拳を払い除け、トントンと彼の両腕両足へ軽く触れる。
「ッッ」
――バッ、と後方へ退避するゼノ。
「おせーよ」
俺は指をパチンと鳴らす。
――バキィメキッ!!
「ぐあっ!? がああああっっ!??」
ゼノの四肢が折れ、破裂した。
「お前から受けた攻撃の威力と魔力を圧縮して返した。 ......もうこれで戦えねえな?」
「ま、まだだ......俺は、俺達は......こんなところで」
すげえ執念だな。まあ、理解は出来るが......今、こいつの魔力を吸収したとき深く暗い恨みの力を感じた。
俺と同じ.......こいつらも。
「お前の気持ちはわかったけどさ。 実際問題人に復讐したところで何もかえってこないぞ」
「わかるものか......お前のような強者に、一族を里ごと封じられた我らの深い怨念は」
「わかるさ。 俺も似たようなもんだ......まあ、俺の場合は里の一族、俺以外みんな殺されたけどな」
「......!?」
俺は白魔道士へ視線をおくる。その意図を理解した彼女はゼノの四肢にヒールをかけ傷を治し始めた。
「......やめろ、お前に治される道理はないッ」
「いいえ、あります。 私......勇者パーティーの白魔道士だったので」
「!」
「償いを、させて下さい。 私に出来ることを」
驚いた顔をするゼノ。
「そいつ、後悔してるみたいなんだよ。 俺ら魔物にしたことをさ。 まあ、彼女は薬物による洗脳で抵抗できない状態みたいだったんだけど」
じっと白魔道士のヒールを眺めているゼノ。その眼差しは何かを思案しているようにも見えた。
そして、四肢が修復された頃、彼は白魔道士にこう問うた。
「......勇者が我が鬼の一族にかけた魔法がある。 貴様はそれを解けるか?」
「魔法......あなた達の里はどこに?」
「ここ王都から遥か西、ガラン渓谷を越えた先にある霧の秘境、【アガンドル】の里だ。 旅に出ていた我ら一団はそれを免れたが、里にいた鬼達はその里ごと結界により封じられた」
「......勇者の結界魔法ですね。 すみません、あれは勇者いがいには解除できないですね......」
死してもなお発現し続ける結界魔法か。本来、その手の魔法は使用者が死ぬと効果が解けるが......流石は最強の勇者と言ったところだな。
ゼノは暗い顔をし、「そうか」と一言呟いた。
「王ならば結界の解除方法も知っているかと一縷の望みを抱いてここへ来たが......勇者パーティーの一員であった、白魔道士のお前が解けぬと言うならば他に方法は無いのだろう」
「......すみません」
「いや、もう良い。 ノワル、お前は今の戦い何割程の力で戦っていた?」
「え、1割......ごめん、1割いかないくらいかな」
「勇者と戦った時は?」
「3割かなぁ......多分」
「うむ。 どの道、我らは勇者には勝てなかった。 故郷の解放など夢のまた夢だった......叶わぬ事だったのだ」
......まあ、確かにな。場所がここじゃなくって王都外なら俺も勇者も三秒でこいつら全員無力化できただろうし。
しかし、なんだろうな。やったことは掟破りで完全にアウトなんだろうけど......俺が魔物だからなんだろうか。
ダメなことは理解したうえで.......救ってやりたいと思ってしまっている。
その時、ふと白魔道士の言葉が思い浮かんだ。
『魔族の英雄として』
死ぬなら魔族の英雄として、か。
考えてみれば、俺が勇者を倒した事でこれからこの一族のような奴が現れては人を襲い出すかもしれない。いや、きっと......そうなるだろう。
こいつら鬼の想いに触れて確信した。俺にはもうそれは消えてしまっているが、本来は消えることなんてないんだ。
大切なモノを失った痛みは。
だったら、勇者を倒してハイ、オシマイとはいかないだろう。
魔族の英雄......人を護り、こいつらを救う事が一番大切な事なんじゃないのか?
と、いうわけで!
「......うーん。 結界、俺がなんとかしてやろうか?」
「「え?」」
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