第22話 戦


 洗練され極地に達した魔力操作。そして幾重にも挟んでくる視線や重心移動によるフェイント......。


 刀に纏わせている魔力もムラがなく、当たれば必殺の剣となる。


(......あの構えはどっかで見たことあるな。 どこだったかな)


 ――スルリ


(――!!)


 真っ直ぐ突き出した刀。左右どちらか死角へ回り込み、斬りつけてくると思っていたが、その読みは外れた。


 ――視認しにくい前方への体重移動、倒れ込むように、刀を真っ直ぐ伸ばし突きへと変化させる。更には切っ先から先へと魔力によりかたどられた刃が伸び、敵の急所を突く。


「――虚空死突!!」


 普通はおこる攻撃の際の魔力移動。それが全く無く、非常に躱すことが困難な突きになっていた。


 ――並みの奴には、な。


 ガキィッッンン――!!


「――なっ!?」


 奴の突き出した切っ先を俺は刀の腹で、逸した。


「この、神速の攻撃を......初見で受け流した!?」


 ――俺には奴の動きが見えていた。その突きがいかに神速の突きだとしても、どう動き出したかその瞬間に感じ取れる。


 この体に纏う魔力、それを周辺へと押し広げた薄い魔力域。その内部に居るものの動きを全て感知することができる。結界魔法の応用だな。


 ちなみに最大でこの王城全てを包み込むくらいの広さまで押し広げられる。だから、王城のメイドが今まさにスイーツをつまみ食いしたこともまるわかりなのさ。何あのケーキ美味そう。


「やはり、やりますね......スライム!!」


「え、まだなんもやっとらんけども......」


 ギィン!!と互いに刃を弾き合う。鬼は距離をとり、そしてそのまま凄まじい速度で俺の周囲を移動し始めた。


(おお、分身したかのようにさえ見える高速移動......身体能力が他の鬼よりも段違いだな)


 ――ヒュッ


「!!」


 後方から小さな瓦礫が飛んでくる。俺はそれを刀で弾き飛ばした。


(――さっきの鬼娘が破壊した壁の破片か!)


 その瞬間、その飛んできた瓦礫とは逆、地を這いずるように体勢低く踏み込む鬼。


 刀は抜き身ではなく、鞘に収められていた。


(――居合!!)


 鬼の冷たい殺気が迸り、その刹那......奴は刀を振り抜いた――



 ――筈だった。


「投擲により意識を逸した上の、死角からの攻撃......なのに、なんで......」


 俺は鬼の刀を抜かれる前に後ろ手で抑え込んでいた。


「そりゃそうじゃん。 お前、素直だな〜。 わかり易すぎ」


 ――ヒュパッ


 回転しそのまま鬼の首筋を峰打ち。


「......がっ、はっ」


 先程の鬼の娘と同様、彼もその場に倒れ込んだ。


「ここ数年やった中では、まあまあかな......あ、剣の腕前の話な」


 鬼達にはありえない光景だったのだろう。


 怒号も、罵倒も無く、微かにきこえるひとり言のような、呟き。


「嘘だ」「......有り得ない」「なんなんだこのスライム」


 先程まであった一人ひとりの凄まじい殺気も消え失せ、重々しい空気が流れている。士気が完全に消えているのがわかった。


「......そうか、この異次元の戦闘力。 やはりお前が」


 ゆらりと前へ出てきた一人の鬼。赤い着物を纏い、大剣を背負った男。他の鬼とは違って萎縮するわけでもなく、まだ闘気が消えていない。


 おそらくはこいつらの頭。リーダー、ボスだろう。魔力の質が先に戦った鬼娘や剣士とも違い、遥か高みにあると一目みてわかる色合い。


「ん、俺のこと知ってんの」


「そりゃあ知ってるさ......『漆黒の死神』『黒き悪魔』『ダークスライム』いずれも伝説や神話の中で出てくる怪物の名だが、これ全部お前のことだろう?」


「まあ、そんな呼ばれ方もしてたかな。 あんま覚えてねーけど」


「......やはりな。 外に放置された勇者の遺体を見た。 その死因になった傷等から察せられる戦闘の過程......勇者達はおそらくお前に手も足も出なかったんだ」


 後方から驚愕する声があがる。その声の主は、国王だった。


「な、なんじゃと!? ......この、鬼どもが勇者を殺ったのではないのか!?」


「俺らが来た時には既に殺されていた」


「え、それじゃあお前ら......俺が勇者パーティーを始末するタイミングで来たわけじゃねえのか」


「ああ。 まさか昨日がその日なんて事は知らなかった。 まあそれに、俺達はどの道勇者を殺せる自信があったからな」


「え、まじ? さっきの二人なんて黒魔道士にも勝てなかったと思うけど」


 ――ミシッ


 殺気が部屋を埋め尽くす。


(おっ、地雷を踏んだか)


 鬼達がガタガタと震え、後方の聖騎士はガチガチと歯を鳴らし、王が失神する。


 白魔道士は杖を構えたまま、脚に力が入らないのかへたりと座り込む。


 鬼のリーダーが冷たい声で言う。


「笑えん冗談だな」


「そりゃ笑えないさ。 だって本当の事だし」


「そうか。 ならば証明してみせよう。 お前の死をもって......我らの強さを。 勇者よりも優れた、我々鬼の強さをお前で!!」


「おー、頑張れよ。 俺はお前のこと殺しはしないから安心しな」


「......ダークスライム。 お前の名は」


「ノワル」


「我が名はゼノ」


 ゼノの魔力が猛々しくあたりに溢れ出し、俺をも飲み込んだ。


 おそらくは俺と同じ、魔力域で動きを感知するため。


「いくぞ、ノワル」


「おお、こいよ」




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