第18話 命


こいつら、鬼の命を助ける?なんで?


「どういう意味だ?」


「......私は、勇者のパーティーにいた白魔道士。 こんなことを言う資格もないと思います......けれど、彼らにも命があるんです」


 命、ねえ。まあ、そーだね。


 俺が黙って聞いていると、彼女は服の裾をぎゅっと握り言葉を続けた。


「命は、尊い......」


 尊い......か。優しい奴だな。けど不思議と苛つかない......こういう偽善的な奴は魔物にもいたが、そいつらは自身に被害の及んだことのない安全圏から物をいうクソどもだった。だからか?


 白魔道士は決して外からではなく、命をかけた戦いに生きていた。


 それは薬や洗脳により抗えない、強制的なものだったのかもしれない。


 けれど、死と隣り合わせの戦いを経て、出た言葉だからなのだろうか。


 偽善ではなく、本物の。


「......けどそりゃ無理な話だよ」


「な、なぜです?」


「魔界での取り決めがある。 それは全ての魔物に定められた、法ともよべる【掟】だ。 こいつら鬼はそれを破った。 だからしっかり裁かなければならない」


「掟......」


「そう。 魔物と人間に平和をもたらすための掟なんだ。 だからしっかり遵守しなければならない......じゃなければ外の魔物に示しがつかないからな」


 ......俺しか倒せなかったとはいえ、勇者達を殺したのは俺の復讐でありワガママだ。


 だからこそ俺が掟を守らないわけにはいかない。


「その掟って」


「ああ、そっか。 ......掟ってのは簡単にいえば『魔物は自身に被害が及ばない限り、人に危害を加えてはならない』って感じかな。 そして、その掟を定めるかわりに俺が勇者パーティーを始末するって取り決めをしたんだ」


「? ......勇者パーティー、全員? 私は」


「お前は......」


 掟に従うならば殺らなければならない。それはそう。


 けれど、利用価値があるのもそう。


「やってもらう事があるっていったろ? その後で、だな」


「.......なるほど」


 視線を落とし、頷く。


「......ま、俺がお前が死ぬときは一人じゃないからさ。 寂しくはないかもしれない」


「? それはどういう意味ですか」


「お前が死ねば俺も死ぬからさ」


「......え」


「俺に宿る【みんなのうらみ】って能力は、ようは殺された魔物達の怨念なのさ。 だから勇者パーティーの全滅が果たされればその力が消失し、ついでに俺の命も燃え尽きる......その縛りも込みの能力だからな」


 みんなのうらみを俺の魂で縛り付け、力を引き出している状態だ。


 うらみの力をつかい俺の魂の強度を高めることにより、強力な魔力をとどめていられている。


 つまり、そのうらみの力がなくなれば限界を超えて縛りつけていた俺の魂は壊れてしまうという訳だ。




「......ノワルが死ぬ......?」




 それは白魔道士の初めて見る顔だった。


 悲しんでいるような、怖がっているような。


 そんな、表情で俺の顔を見据える。


 俺は彼女の反応になんとなく居心地が悪くなった。それと同時に胸の奥のひっかかり。



(......寂しくないって、それ)


 矛盾に触れそうになったその時、白魔道士は「うん」とひとつ頷いた。





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