第17話 圧倒
......苛つくな。
眼前の赤鬼共は揃いも揃って口を開こうともしない。ただ一人を除き。
魔力量の感じからいっておそらくはリーダーだろう。先頭に立つ鬼が口を開く。
「そうだ。 俺達は【鬼神滅団】......誇り高き最強で最凶の戦闘集団だ。 さあ、お前の問には答えた。 こんどはこちらの質問に答えて貰おう......お前、なぜそれほどまでに強い? あの一瞬で暴れ回る同胞達を気絶させるなど......お前は一体なんなのだ?」
(あ、あのスピード見えてたの......ま、流石は【鬼神】の魔族といったところか)
はあ、もう良いかな......この先の展開を考えると、正体隠すのも限界じゃね?
まあ、こいつらは同じ魔物だから大丈夫だけど。衛兵は......マズイよな?
(つか、なんか面倒くなってきたな。色々考えるの)
......この人型の状態でもコイツらくらいなら倒せる。けど、どの道そんな規格外の力を目の当たりにすれば俺が人外の魔物だというとがバレる。
王都内に俺のような魔物が入り込んでるなんてわかったら、人々は混乱し暴動にもにた争いも十分に起こり得る。が、それは避けたい。
「おい! 何とか言え! 女っ!!」
刺すような鋭い眼差しで睨む赤鬼。
彼の文字通り鬼のような形相を眺め、その時ふと気がつく。
(あ、そっか。 俺、なに悩んでんだ......こいつらのせいで既に街中大混乱だろ。 もう今更一匹魔物が現れてもたいした問題じゃ無いでしょ。 アホか)
「あー、えっと......スライムですが何か?」
答えた。ちゃんと答えた。なのに、彼ら鬼達から向けられる視線は以前、「なんだコイツ」的な類のやつだった。
「アルガデラの兄貴、どうする? こいつ多分、頭おかしい奴だぜ?」
そういう鬼の一人に対し、「いや」とアルガデラが首をふる。
「......そうか、おまえがあの。 伝説の魔獣、ダークスライムか」
「まあ、そんな呼び方もされてたような」
なんか恥ずかしいな。伝説の魔獣とか言われたらちょっと照れるよね。
「あんたに出会えた事、こうして言葉を交わせた事は光栄だ。 だが、生のあんたを見てみてよくわかる」
「......なにが?」
「その危険さがだ。 お前ほどの脅威はほうっとけ無いな」
どこのどの部分を見て脅威と判断しているのか。まあ、十中八九、魔力量だろう。
が、こいつらは知らない......この人間の姿では本来の魔獣の姿の百分の一しか魔力を扱えないことを。
いや、まあどの道脅威と判断したのは正しいんだが。
「いや、それに関してはこっちもお前ら野放しにしとけないんだが? お前ら.....魔族、魔獣の世界で新たに掟が出来た事、勿論知ってるよな?」
「!」
俺が勇者とそのパーティーを殺すにあたって、ひとつの掟を作った。
それはこの血で血を洗う不浄の連鎖を食い止めるためのもの。
「俺達は、人から危害を加えられない限り、人に危害を加えない......知ってんだろ?」
「ああ、まあな。 だからこうして勇者の遺体があるわけだが......そうか、お前が処刑人だったか」
まあ、つーか、ぶっちゃけ俺以外だれにも無理なんだけどね。勇者達を殺すとか。
「しかし、その掟がどうしたというんだ?」
「あ? ......どういう意味だ?」
「やつら邪魔な勇者共がせっかく消えたんだ......俺達は鬼、強者であり弱肉強食の頂点!! 人を魔族を全てを蹂躙し、愉しむのが俺達【鬼神滅団】なのだ!! 勇者を消してくれた事には感謝こそすれど、掟になど従う理由はないッ!!」
「あのさー、これはお願いとかそう言うんじゃないんだ。 俺はちゃんと警告したからな」
「そりゃどうもありがとなあ!! じゃあ死んでくれ!!」
左右に飛出した鬼二人。その手には棘の付いた棍棒が握られている。
中央からはアルガデラが突っ込んできた。奴の武器は巨大な大剣。
(! 他の奴らは......俺の後ろ、先攻してきた奴らを盾に死角へ移動している。 連携が上手いな)
「――まあ、意味ねえけどな」
――アルガデラの大剣を握る手首を掴み、引き寄せる。
「な!?」「おあっ!」
左右の鬼がアルガデラに棍棒による攻撃が当たりそうになり、バランスを崩す。
僅かな隙、アルガデラの巨体から生み出された死角。
(――この死角を利用し、撃ち抜く)
――指先に空気を集中、魔力と共に加圧。
【空気砲撃】
ボンッ!!という破裂音が二つ響いた。
「がふっ」「ぐふっ、が」
先程の住民を襲っていた奴らに撃ち込んだモノとは違い、魔力を練り込んである。
ドシャッ
二体の鬼の骸が転がり、青い血液がそこから広がり石畳を濡らす。
「うおおっ」「やべえ」「なんだ!?」「何がおきたっ!?」
混乱する鬼にアルガデラを投げ飛ばす。
「――お前ら、逃げろ!!」
叫ぶアルガデラ。しかし、その指示はもう遅い。先程、俺はアルガデラを引き寄せた時に大剣を奪っていた。
――ダンッ
地面を蹴りつけ、鬼達に接近。そのままアルガデラを受け止めようとしていた鬼の首を、大剣により全て斬り飛ばした。
ドオォンッ!!!
東区一の大きな宿屋の壁にアルガデラは激突。ガラガラと瓦礫が落ち、埃が舞う。
その奥から奴の声が聞こえる。
「ぐふっ、ぐ......は、ははっ。 不意を、つかれたってーのは......ありえねえ」
「ん? 何が?」
何笑ってんだこいつ。
「俺らは毎日が生き死に紙一重の世界で生きてきた。 だから、さっきみてえな不意打ちにも急所に魔力を集めガードすることなんざ呼吸をするくれえ当たり前に出来るんだよ......」
「ああ、まあ.....確かに今殺した奴らはちゃんと魔力ガードしてたわな」
「おまえ、おまえは......それを物ともせずに撃ち抜いた! ありえねえ! 致命傷を避けるために集中させた魔力をもろともぶち抜いた!!」
え、な、なんか興奮してる?
「お前ほど強ええ奴は見たことがねえ!! 面白えよ!! もっとだ!! もっと楽しもうぜ!! さっきみてえにはもう遊ばれねえぜ!! 本気だ......! 覚悟しやがれ!!」
「あ、そう。 でもお前、もう――」
指をさす。
「もう......あ?」
指のさされた先、腹部を見れば。
「が、がふっ、おぼっ」
巨大な空洞が暗く空いていた。
吹き出す青の鮮血。
「......もう、死んでるからさ。 残念」
大剣を奪った時の一連の動きの中で腹を撃ち抜いた。密着した時が一番の攻撃チャンスだからな。
前のめりに、まるで何かを掴もうと手を伸ばしながら絶命しているアルガデラ。これが戦闘狂の末路か。
まあ、どうでもいいや。そんじゃ。
「......気絶してる奴も殺しとくか。 おきたら危ねえし」
「あ、あの」
振り返れば白魔道士が立っていた。
「お、怪我人の治療終わったのか? 早いな。 流石は元勇者パーティーのヒーラー。 治療速度が化物じみてるなぁ......って、なに? どした?」
白魔道士の初めて見る、真剣な眼差し。
(......なんだ?)
「あの人たち、殺さないでもらえませんか」
「え?」
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