第15話 忘れ物


 まあ、封鎖が解除になるまで王都内でふらふら遊んでるって手もあるけど、時間もったいないしこの件に関して何か知ってそうな奴のとこにでも行こうか。


「あいつ、何かしってるかなあ」


「? あいつ......?」


「昨日の衛兵のこと」


「あ、あの人」


「どうせすぐには開きそうに無いしいってみようぜ」


「そうですね。 原因もわかれば対処できるかもしれませんし」



 ......てか、なんか重要な事忘れてる気がする。



「あ」


「......?」




 えっ


 あれ、もしかして......外に放置した勇し



「どうかしましたか? ノワル」


「......いや、気のせい」


「え?」


 ああ......あああっ。




 ◆◇◆◇◆◇




 〜【王都中央軍部(会議室)】〜



「これは人類の大きな損失であり窮地だ」


 そこに横たわるは勇者、戦士、黒魔道士の遺体。


 それを囲むように各部隊のリーダーや国の要人が立ち込めている。全てを超越し、敵無しだと思われた者達が死んだ.......しかも殺されたという、まさかの事態。


「ありえるのか? 彼らは人類最強なんだぞ?」「し、しかしこうして殺されている」「いや、罠......なにかハメられたという事も」「そりゃねえよ。 罠だとしてもそれを突破できてしまう莫大な魔力が奴らにはあった」「じゃ、じゃあどうして死んでいるんだ!?」


「――うるさいぞ貴様ら」


 王が座するその前方、顔までも覆われた白い鎧の騎士が場に静寂をもたらす。


「し、しかし、軍団長......我々はどうすれば」


 勇者一人でおおよそこの国にいる五千の聖騎士全てを殺せる。勇者パーティーが四人揃えば国すらも制圧できると言われていた。


 そんな四人のうち三人を殺してしまう、文字通り化物が存在する。


 我々に為す術がないことは明白。やれば確実に......だが、戦わねばどの道死ぬだけだ。


「確かに敵は強大だ。 戦っても勝てない可能性のほうが遥かに高い......だが、やるしかないんだ。 狼狽えていても何も変わらない......大丈夫だ、勇者が現れる前、ここを護っていたのは我々聖騎士軍。 僅かでも必ず勝機はある」


「そ、そうですね」「確かに、慌てふためいていても......」「心で負けていたら勝てるものも勝てない!」


 僅かに士気があがる。


「それに、そうだ」


 皆が軍団長をみる。


「軍団長は、当時勇者パーティー以外には不可能と思われていたSSレート、【ヒュドラ】を倒している......勇者の次にこの国で最も強いと謳われている軍団長ならば、もしかすると!」


 軍団長がうなずく。


「ああ。 お前たちの心が折れない限り、私の剣もまた折れない......必ずこの勇者を殺した魔族、鬼族の一派に報いを受けさせようではないか!」


【鬼神滅団】SSSレートの鬼族がリーダーの武闘派魔族の集団。その昔、勇者が現れる前までは各地で人々を襲いその名を轟かせていた。


 今はゼノという奴にリーダーが代わっているようだが、勇者を殺った事から異次元の強さを秘めている事は間違いない。


(......まさか勇者を殺せる程の力をつけていたとは......私に、勝てるのだろうか......)


 机に置かれた奴らからのメッセージに目をやる。


『勇者はこの俺、鬼神滅団のゼノが殺した。 次は王都の人々、全ての人間を殺し死肉を喰らう。 その前に先ずは人の王、貴様からだ』 


(......門の外に奴らはまだ確認できていない。 いつ来る......)


 鎧の中、恐怖で指先が震えている。


 強者故に、勇者達の遺体から殺したものの圧倒的な実力がうかがえる。


 まるで遊ばれ殺されたかのような傷。おそろしいことだが、おそらく奴は実力の殆どをださずして勇者を殺しているように見える。



(......私、今日死ぬのかな......嫌だ、怖い)



 剣の天才と呼ばれ、最強の少女剣士になり、この聖騎士達の軍団長まで登り詰めた。


 その過程で数多の死線を越え、生き抜いてきたが、今日ほど恐ろしいと思った事は過去にない。


(戦えば確実に殺される。 もしかすると死にたくなるような酷い拷問を受けて殺され方をされるかもしれない......そんなの嫌だ、怖い......私、まだ生きたい......)



 そうだ、私は――


 ......普通に生きて、幸せになりたかった。


 ――だが、戦うしかない。



 軍団長、【スノウ・メイナーム】は恐怖に潰されそうになりながらも覚悟を決めた。



 退けない、絶対に。




 ◆◇◆♢◆♢




 赤色の肌と、二つの額にある角。青い髪を束ねた鬼。


【鬼神・ゼノ】は部下へ確認する。


「勇者らの遺体は奴らに届けたのか?」


 幹部の一人、聞かれた一本角のシナトは言葉を返す。


「ええ、ゼノさん。 人目につく大通りに頂いた手紙を添えて置いてきました。 先程様子を見に行かせた人間からも遺体が回収されたと報告が入っていますね」


「そうか、ならばそろそろ城へ向かうか」


「はい。 しかしなぜこのようなやりかたを? これでは城に戦力が集まってしまいますよ?」


「集めたほうが楽だろ。 力のある騎士共をまとめて殺し俺達の力を魅せる。 そうすれば人間は反逆する気もおきなくなる......その方がうっとおしいのが出てこなくなって良い」


「ああ、なるほど。 わかりました。 では、屋敷で待機している皆に城へ進撃する旨を伝えてきますね」


「ああ、頼む」





 ――さあ、始めよう。鬼族の解放を......この国を落とし、必ず。





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