第14話 幸福


 翌朝、天気は晴れ晴れとした晴天であった。


「快晴なり」


「え?」


 きょとんとしている白魔道士。


「いんや。 晴れてんねえと思ってさ」


「あ、はい。 ですね」


 あれから朝起きてみれば白魔道士の態度は平常に戻っていた。


 あれはいったいなんだったんだよ。焦っただろうが......。朝起きて同じ症状が続いてたら医療館駆け込むとこだったわ。


 まあ、なんにせよ治った(?)ならいいや。


「そんじゃあ、北門からでようかね。 ここからなら馬車で五分くらいか。 いくぞー」


「は、はい!」


 ガラゴロと馬車に揺られ王都の出口を目指す。風が心地よく、隣の白魔道士も心なしか微笑んでいるように見える。

 すると急に反対にいた老婆が声をかけてきた。


「黒髪のお嬢ちゃん」


「ん、俺か?」


 うん、と頷き続ける。


「なにか良いことでもあったのかい? 幸せそうな顔をしとるのう」


 その言葉を聞き、俺と白魔道士はキョトンとし、顔を見合わせた。


「いや、特に......なにもねえかな」


「?」


「ほっほっほ。 そうかい......その時間を大切にな」


 何言ってんだろうこの婆さん。おれが幸せそう?ありえねえだろ。


 おれの生きる理由は憎悪から成るものだぞ。


 陰鬱な人生といわれる理由はあれど、幸せなんて......遥かにかけ離れてる。


「あ、ノワル」


「ん?」


「北門到着ですよ!」


 みれば大きな門が視界に飛び込んできた。


「やっと旅にでられるな」


「......す、すみません」


「え、あ? ああ、いやいや......こちらこそすみません」


「え?」


 いや、だって白魔道士のせいじゃないし、べつに謝られても。でもそんな話題だしたのはおれだから......ああ、もうわけわかんねえ!


「いいからいくぞ」


「はい!」


 馬車を降りると門の前に人だかりができていた。おれは一瞬で感じた。――あ、これ嫌な予感するわ、と。


「なんだって通れねえんだ!」「ふざけんな!」「今日仕入れにいけなきゃ商売にならねえんだぞ!!」


 がやがやと大勢に罵倒される門番。


「む、無理なものは無理なんだ!! これは王の決定である故に決して北門を開くことはできぬ!!」


「ふざけんな!」「じゃあいつ開くんだよ!!」「てめえら店が潰れたら責任とってくれるんだろうなぁ!?」


「それは国王政府事務局へ行き聞いてくれ。 俺はなにも知らないしわからん!!」


 まじかよ無責任だなぁ。もう面倒だし、人気のないところで翼でもつくって門飛び越そうかなぁ。


 ふと空を見上げ凝視する。


 薄く紫がかった膜を確認。ああ、やっぱりなぁ......だよなあ。ねえはずねえもんなぁ。


【結界】あるよね。ここ王都だし。しかもあれ、かなり強力な結界で低級の魔物どころかSSSクラスの魔物すら入れねーじゃん。

 てかSSSクラスの魔物なんて人間界にいねーじゃん(多分)。過剰防衛にも程があるわ。


「あ、あの?」


「ん? あー、出るの無理そうね。 空にも高位の結界張ってあるし......ちなみにSSSレートの魔物すら通れないやつ」


「え!? 誰がそれ張れるんですか!? 人には無理じゃ」


「ん? 確かに......言われてみれば、誰があれ張ったんだ?」


「し、しかしこれだと空から出ることも出来ませんね。 対SSSレートの結界であれば全ての魔物が通れないと同じ......壊すこともできませんしね」


「え、いや余裕で壊せるけど?」


「え!?」


「ただ、破壊したらめんどうだろ? バレたら追われるし」


「あ、あれを破壊しようと思えば破壊できる......?」


「おれに壊せねえ結界はねえ!」


 どやぁ!!


「と、まあ別の脱出方法さがそうか。 他の門もダメなのかな?」


「あの、あれ......」


「ん?」


 みれば張り紙に大きな文字で全門封鎖と書かれていた。


「ははっ」



 予想はついていたが、不運な展開の連続に苦笑いになるおれだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る