第12話 絆


「? どしたの?」


「お礼を......貴方様のお名前は?」


「ノワル。 こっちのが......ミナトで、えっとお前の名前は?」


 足元の少女に今更ながら名を聞く。


「リン!」


「リンだってさ!」


 ドヤッとした表情で俺に名乗ってきたリン。


「ノワル様、もしよければですが。 そちらのリンを預けに来られたのでしょう? お預かりいたしますか?」


「え?」


 こんな大変な事になってるのに?いいのか?


 まあ、早くリンを預けて白魔道士と旅に出なきゃだから預かってくれるなら嬉しいけれども。


「ええ、大丈夫です。 この屋敷からちょうど場所を変えようかと思っていたところで。 じつは私の孤児院は北にもありましてな......そちらに移ろうかと。 東区地区はもはや子供の住める場所では無くなって来たので......」


 まあ、治安悪すぎだからな。一人目はこっちから喧嘩売ったからだけども。......あ、やべえ、そういやリンの代金渡してねえじゃん!どーしよう......まあ、いっか。


「ってことは、その北地区にある孤児院にリンを連れて行くってことね? じゃあ頼むわ......寄付金いくら必要かな?」


「あ、いえ! 命を救われた身ですので、むしろお礼金を払わなければと......!」


「いらないかなあ。 暇つぶしにはなったから、それが対価でいいよ」


「そ、それでは気が済みません」


「んんんー......あ、そうだ。 じゃあ、リンのことよろしく頼むよ」


 これも何かの縁ってやつだ。リンがちゃんと過ごせるように言っとくか。まあ、人間だから別に幸せになろうが不幸になろうがどうでも良いけど。


「頼んだわ」


「わ、わかりました、必ず......!」


 こうして強盗を縛り上げた俺と白魔道士は孤児院を後にした。しかし、あれだな。人間の姿で魔力もほとんど体外に出せないとはいえ、戦えるもんだな。


 そろそろ体型維持がしんどくなってきたけど。


 そんなこんなでやっと白魔道士の家へ到着した。


「では、少々お待ち下さい、ノワル」


「おう。 ゆっくりでいいよ」


 なんか短い間に色々ありすぎたな。勇者共殺して敵討が終わり王都を歩けば頭のおかしい奴隷商をしばきあげ、孤児院で強盗しばきあげ、そしていま白魔道士を連れて旅にでようとしてる。


 ここまで人と関わること、今までになかったな。なんか面白えな。勿論、この憎しみが消えたわけじゃないけど。


 でも、いろんな人間がいるよな。やべえ人間もいるが白魔道士やリンみてえな奴もいる。あと爺さんも親切だったし。


 ......勇者、戦士、黒魔道士。あいつらが特別凶悪だっただけってことか。


 まあ、今更人と仲良くなんて出来ないし、俺の中に宿る魂が許さないだろ。


 てーか、村や町を落とした事もあるし。もう俺は人とは相容れない。


 互いを憎しみ、殺し合うことで存在するだけの魔獣なんだ。


「......戻りました」


「え、早ない? もう?」


「はい」


 ん、でも荷物なんもねえけど?......あ、ああ、そうか。


「持ってくもんなんもなかったのか」


「......はい、私の物は全て売ったと」


「おまえ、やっぱり奴隷だったんだな」


「お気づきになられていたのですか?」


「ああ、まあな。 でも良かったじゃん」


「え?」


「これで完全に自由だ。 ほんとの親はどこにいる?」


「......私が小さな頃に魔獣被害で亡くなりました」




 ......。



 ......。



「そっか。 まあ、でも嫌われてるなら未練も無いだろ。 下手に引き止められても苦しいだけだろうし」


「......ふふっ」


「え、どした?」


「いえ、ノワル......慰めてくれてるから」


「!? ち、ちげえよ! 行きたくないって始まっはたらめんどくせえから!」


「ふふっ、あなたはあのときのまま......やっぱり、お優しいんですね」


「優しくねえよ! い、いくぞ」


「はいっ」


 優しい?あのときのままって......隠れ里の話か?こいつ、ちゃんと覚えてるのな。


 でも、だったら......自分が俺に同行することで死ぬってことも、勿論理解してるんだよな?


 俺が優しい、その言葉忘れんなよ。


「......商店閉まる前に、なんか必要なもの買っとくか」


「え?」


「あ、金? 俺が出すから大丈夫。 おまえが準備不足で死んだら困るし」


「......ありがとう、ございます」


「いや、俺の為だし。 あと飯くうか?」


「はい......」




 まだ、死なれたら困る。




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