第11話 孤児院


人のエゴ。ただそれだけのこと。


「こんちはー」


 扉を二、三度ノックし呼びかける。


「「「......」」」


 しかし返事が無い。


「留守でしょうか?」


「うーん。 でもこの孤児院って子供の数百人こえるんでしょ? 皆で一斉におでかけするとも考えられないし」


 そんな会話をしていると、ガチャリと鍵があく。そしてその隙間から爺さんが覗いていた。


「......なにか?」


「おっ、居たのか。 ここにこの子を預けたいんだ......話聞いてくれない?」


「......それは少し無理なお話ですな」


「まじで? でも寄付金もあるぜ?」


「......はやく消えたほうが良い」


「え、どゆこと!?」


 と、その時。


 扉が大きく開かれた。


「何してるんですか先生。 おや、こちらの方々は?」


「......俺はこの孤児院に子供を預けに来た」


「なるほど、そうでしたか。 この子はあなたの娘さん?」


「違う。 けど、それは無しだな」


「? 何がです......無しとは?」


「お前......いや、お前らクセえよ」


 白魔道士が頭上に「?」を浮かべたまま。フツーの人間にこの臭いは感じられないのか。


「そこの扉の裏に一人、二階の植物の陰に一人、あとは外の屋根上にもいるな?」


「なっ!?」「「......!?」」


 こいつら強盗か。


「ははっ、よく分かったな? 気配は完全に消していたと思うんだが......やるなお前」


 やるなもなにも、気配より血の匂いを消さないと。こちらの様子を伺うために開けたドアの隙間から漏れ出している強烈な血の匂い。

 まあ、気配消しも甘すぎだけど。殺気抑えたら?


 つーか外のやつは気がついていたけど、ペンキ塗りとかの業者かと思ってたわ。


 奴はナイフを取り出し、爺さんの首元へあてる。それを皮切りに隠れていた男達が集まりだした。


「さて、状況わかるよな? お前らがとれる選択は、『金を置いて行くか』、『死んで金を置いて逝くか』の二つだ。 選ばせてやるよ」


「......いんや、三つだな」


「は?」


「お前らがボコされるか、だ」


 ――俺は軽く手を振り抜く。目前の男の顎をかすめ、それと同時に握られていたナイフを奪う。


 失神し、ぐらりと倒れ込む様子に異変を感じた奴の仲間たちが一斉にかかってくる。


 後方から銃をうとうと構えた男。ナイフを投げ、指を切り落とす。


「!!? ぐあっ」


(弱く、よわーく!)


 指を切り落とされ、うろたえる男へ限りなく手加減をした【空気砲撃エアバレット】を撃ち込む。


 ――ベキィ!!


「......――かっ、は」


(うわあー! あやしい!! 骨折れたか!? 難しすぎる!!)


 ――その間に前方から男達が距離を詰めてきた。が、仲間があっという間にやられたからか動きに躊躇いが見られる。


(――お、この距離なら......!) 


 一瞬にして、急所をかすめるように打撃をそれぞれに軽く撃ち込む。接近してきた男二人を無力化。


(......戦闘開始から約5秒で鎮圧。 弱いなー、こいつら)


「......な、なんと」


 驚く爺さん。腰が抜けたのか床に尻餅をついてこちらを見ていた。


「す、すごい」「......」


 白魔道士も少女も驚きの表情を浮かべ、立ち尽くしていた。


「あの、悪いんだけど白魔道士、外で失神してねてるやつ診てくれない? 骨イってるかも」


「あ、はいっ!」


 さて、と。


「こいつらは? ただの強盗? はやく軍に連絡したほうが良いんじゃねえの?」


「あ、は、はい」


 頭のおかしい奴隷商の次は強盗か。次から次へと、東区ってのは治安が悪すぎだな。


「さて、別の孤児院に行こうか」


「えっ?」


「もう、ここ無理だろ。 だってほとんどの孤児が殺されてるぜ? 預けられても困るだろ」


「「!?」」


 白魔道士と少女が驚き固まる。あ、そうか、この二人は気がついてないのか。


「多分、二階の二部屋に全員の死体が突っ込まれてる。 理由は逃げられたりしたら面倒だったからじゃね?」


「そ、そんな......」


 白魔道士が......落ち込んでる。たかが他人の命が失われただけなのに。顔も合わせたことのない奴にどうしてそこまで感情が動く?


 俺のように直接記憶を見せられたわけでもないのに。


「まあ、そんなんだから、行こうぜ。 あと軍に色々聞かれたらめんどくせえし」


 二人を連れて行こうとしたとき、じいさんが俺達を呼び止めた。



「お、お待ち下さい!」



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