第10話 少女


衛兵は頭を下げた。


「ありがとうございます! 助けていただいて......なんとお礼を申し上げれば良いか! あの奴隷商、アギルをこうも容易く倒してしまうとは......物凄くお強いのですね!!」


 え?......あ、助けたのか。なんかついノリでやっちまった。そんな気無かったんだけど。つーかこの奴隷商、有名だったんか。


「僕、衛兵になって五日目でこのエリアの担当を任され、まだ日が浅くって......助かりました」


 みればまだ若く、衛兵としては実力不足感が否めないのがわかる。


 いうて奴隷商に遅れを取ってる時点でまだまだ衛兵を任される力が無いことは明白だ。


「それは良いんだけど、お前弱すぎだよ。 魔力操作もおぼつかないんじゃ今みたいな事が次おきたら確実に死ぬぜ? 大丈夫か?」


「は、はい。 それは、そうですね......市民の身を守らなければならないのに、これでは。 お恥ずかしい限りです」


 伸びしろはありそうなんだけどな。でもこのままいけばこういう奴隷商みたいな気の短い奴に殺されかねない。ちょっと勿体ないような。


「軍は人員不足なのか? おまえ、もう少し訓練してから実戦でた方が良いぞ」


「そ、それは......まあ」


 言えないのか。まあ、いいや面倒に首突っ込むつもり無いし。


「......そっか。 仕事の邪魔したな。 まあ、後は適当にこののびてる奴隷商ばか連れてってくれよ。 俺達はもう行くから」


「あ、は、はい! ありがとうございました!!」


 素直な人間だな。こういうやつは好きだ。


「......それと最後に。 おまえ毎日、寝る前に魔力放出して空にして寝ろ」


「え?」


「魔力の総量をあげるのに手っ取り早い方法。 ある程度のレベルの戦闘までは魔力の量が勝負を決める......その魔力量じゃお話になんないぜ」


「わ、わかりました!」


「んじゃあなー」


 ま、魔力空にした次の日はへとへとになるだろうけど。あのままじゃどの道まともに戦えないんだから別にいいだろ。


「あの」


「ん?」


「ありがとうございます」


「なにが!?」


「人を助けていただいて」


「いや、暇つぶしだから」


 なんで礼なんかいわれるんだよ。おかしな奴だな。


「......ん?」


 ぎゅっと俺の服の袖を引っ張る少女。


 彼女は上目遣いで俺を見つめた。


「......まずはお前を孤児院へ預けるか」


「はい!」


 嬉しそうな顔をするな白魔道士。でもわかってるのかな。

 こいつ一人助けたところで意味ないんだぜ?


 ああいう奴隷商は世界中にいくらでも居るし、なんならもっと酷い目にあってる人間も多くいる。


 お前の善行は無意味だ。


 って、思っているのに。なんかこの顔見てると言えねえな。不思議。


「おねえちゃん」


「お? ああ、俺か......どうした?」


「すっごいねえ! いままで戦った皆は負けちゃったのに、お姉ちゃんは強い!」


「おー、まあな......白魔道士、あいつそんなに強かったのか?」


 彼女はうなずく。


「ええ、強いです。 暴君アギルはこの王都で幾人もの衛兵を殺しています。 しかしその強さから、対抗することもできず野放しになっていたんです」


「へえ......え、でも衛兵にも強い奴はいるだろ?」


「強いものは衛兵にはなりません。 衛兵とされるものは軍でも下級の者たちですから......実力があれば別任務にあてられます」


 え、ええ。


「わけわからんな。 あんなやつ野放しにしてたら市民にも危害加えられるだろ......バカだな、人間って」


「......ですね。 人はバカで愚かなのかもしれませんね」


 彼女はにこっと微笑んだ。どこか寂しそうに。


「あ、つきました」


「おお、ここが」


 東区で一番大きい孤児院。『マーニアル』



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