第9話 奴隷商
王都は大都市だ。その人口は数百万にもなり、活気があり国中の商人が集まってくる経済の中心。
日々賑わう市街地は勇者の存在もあり、魔物被害の心配もなく皆幸せそうな表情だ。
「へえ」
「どうかしま......した? の、ノワル」
「いや、人が平和ボケしてんなぁって思って」
「そう、だね。 あれでも勇者達は人々にとっては心強い良い英雄だったから」
「......おまえさ」
「?」
「ホントのところどう思ってるんだ? 勇者達を殺した俺の事」
「......確かに、彼らは人々の希望だった。 けれど、無関係で人を襲わない魔物ですら虐殺し快楽を貪る彼らは、それでも許されない。 殺されても仕方なかったと思う......あ、私もだよね。 ごめんなさい」
「いや。 別に」
なるほど、意識があったからこそのバランス感覚。人に正義があると思考放棄の人間とは違うってわけね。
まあ、だから何だっつー話だけど。やったことにはかわりねえし。
「んで、おまえの家は?」
「東区ですね。 ここが北区なので馬車に乗りましょうか、あ、乗ろう」
「......了解。 金は?」
「あ」
やっぱり。勇者が持っていて管理されていた感じか。こいつには討伐報酬とか一切入ってないんだろうな。金融魔庫に振り込まれる基本給くらいしかないと見た。
「いいよ。 俺が出してやる」
「えっ、で、でも」
「心配すんな。 人の通貨なんて使う機会ないからさ、別に遠慮する必要はないよ。 あといっぱい持ってるし」
「......家に帰ったら、お返しします」
「いらね。 行くぞ〜」
馬車を乗り継ぎ約一時間。王都広すぎだろと思いつつ、東区の大通りを二人で歩く。
「おまえさ」
「はい?」
「あんな廃人状態で家族心配しなかったの?」
あれだと実生活がまともに送れていたのかも心配なレベルだったからな。
つーか、どうやってここまで生きてこれたんだ、あれで。
「えっと、基本的に黒魔道士の借りていた家に住んでました。 勇者パーティーに入ってからの五年間、実家に帰ることはなかったので心配は無かったですね。 ......まあ、多分、どの道心配はしないと思いますけど」
「......?」
「洗脳状態の時、黒魔道士が私の体のメンテナンスをしていてくれました。 最低限の食事や入浴をさせる、戦闘で使えるように特定の言葉で動くよう訓練する、とか」
「お、おう。 おまえ、それ......ちょっと、やべえな」
もはや奴隷の域じゃん。
「ですね......でも、解放されました。 ノワルのおかげですね」
「あー、ね」
ホントはあの場で殺そうと思ってたんだが。つーか、いずれは殺すんだけども。
......殺さなきゃ、俺も死ねねーし。
「でも家族が心配しな......」
と、聞こうとした時。彼女の注意が別の何処かへ向いている事に気がついた。
「――い、痛ぃ......やめ」
「うるせえ、こい! 躾けてやる」
髪を鷲掴みにしている男と、まだ幼い少女。あれはおそらく奴隷商とその商品かな。
小さい頃からああして痛みを与えながら調教するのは、扱いやすくするのに効果的だからな。
(......でも髪引っ張ってハゲたらどうすんだ。 商品価値下がるやんけ。 バカか?)
「......どした?」
「あ、いえ」
顔色が悪くなる彼女。
「あれが気になんのか?」
「......ま、まあ」
あれ、もしかしてこいつ。
「ふーん。 なるほどね......あいつ、助けてやろうか?」
「え?」
「奴隷一人買って孤児院に預けるくらいどうってことねえよ。 金は有り余ってるし」
「あ、で、でも......」
ぐだぐだ言われる前に行こうっと。
「へい、そこのイカれた商人!」
「あ?」
「おまえバカなの? 躾にしてもやり過ぎだろ? 傷ついたら商品価値下がるじゃん! つーわけでタダでその子ください」
「......バカはテメエだよ。 旅人風情が」
お、魔力の気配。こいつ何かしらの力を使えるのか。でもまあ、奴隷商は魔獣の類もあつかう奴もいるというから、戦えてもおかしくないか。
「俺はなあ、お前みたいな身の程知らずが一番嫌いなんだよ。 見たところ武器もねえし、かと言って魔力も感じねえ......まさに口ばっかの偽善者って感じじゃねえか」
「あー、確かに......でもこれは偽善じゃないぜ?」
「あ?」
「ただの暇つぶしだ」
奴隷商の顔が怒りで固まる。
「ぶっ殺す!! 【
――ドゴウッッ!!
石畳が激しく吹き飛ぶ。土埃が舞い、奴隷商が笑った。
「ひゃははっ、バカが! 俺はなあ国王軍にも居たことがあるんだぜ? お前みてえなクソ女が楯突いてんじゃねえよ!」
騒ぎを聞きつけた衛兵が駆けつける。
「あ、あんた! 街中で魔法を.....しかも人に向けて放つなんて!!」
「あ? お前も殺すぞ?」
魔力で衛兵を威嚇。衛兵は基本、魔力を込め発射する【魔導銃】を武装として持っている。
しかし、奴隷商の纏う魔力はその衛兵の魔力では鎮圧することは不可能の圧を放つ。
「くっ......くそ、応援を」
「させっかよ、バカが」
魔力を纏う蹴りを、腹めがけ撃ち抜く。
不意をつかれた衛兵は魔力でガードすることも間に合わない。肋骨粉砕確実――
――と、思われたが。
片腕で奴隷商の蹴りをガードする、黒い外套の黒髪少女。
「な、に!? お、俺の蹴りを受け止めただと!? つーかさっき【
「あんなもん魔力無しでもよけれるわ。 あと魔力量少なすぎだし、蹴りの威力もおそまつ......生身でもガードできちまうぜ」
「ぐ、ふ、ふざけん」
――ドグッ!!
奴隷商の腹部にベッコリと丸い跡ができる。
「が、はっ......なんな、てめ」
ドサッ。
白魔道士が駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか!? ノワル!」
「え、そりゃ当然。 つーかやりすぎたかも......寸止めしたんだけど、空気圧で殴っちまった」
ゴポッ、と奴隷商の口から大量の血液が出てくる。こりゃ内蔵が......あー、めんどくせえな。でも俺の能力使うのも嫌だし、更にめんどうになるし。どーすっかなぁ、これ。
「......ヒール!」
奴隷商に手を向け白魔道士はそう唱えた。すると奴隷商は苦しみの表情から、解き放たれたかのような安らかなものへ変わった。
「折れた骨を戻し、傷ついた臓器を修復しました」
「お、まじか。 ありがと」
「勝手なことを......ごめんなさい」
「え? いやいいよ。 今ありがとうっていったじゃん。 こいつにこの場で死なれたら面倒だから治してくれて良かったよ」
「そ、そうですか」
こいつから時々違和感を感じるな。人間てみんなこんな感じなのか?
深く関わったことねえからわからんな。
「あ、あの、君たち......」
衛兵がこちらへ来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます