第8話 人
「よし、それじゃあ王都で旅の支度してきてよ」
「は、はい。 ......あの、でも」
「ん?」
「あ、いえ。 その、早く王都から離れたほうが良いのではと。 あなた様がお強いのは理解しています......けれど、ここで騒ぎになるのは面倒では.......?」
ああ、なるほど。この勇者達の死体の事を言ってるのか。
ぶっちゃけこれ亜空間魔法で消し去ることもできるんだけど、魔族が殺したという事実がなければ人への抑止にならない。
だからあえてここに放置しとくんだけど。
「大丈夫だよ。 俺の結界には認識阻害と侵入不可の効果がある。 これはあと二日は効果が続くように魔力量を調整してあるから、すぐには騒ぎにならないよ。 だからゆっくり支度するといい」
「そ、そうなのですか。 わかりました......」
「あ!」
「......?」
白魔道士が王都へ向かおうとしたとき、あることに俺は気がついた。
さっきは本気で命を捨てる気だった。けれどもし、王都へ戻り親や友達に会い、死にたくなくなったら?
王都は数百万人もの人間が住む大都市だ。逃げられようものなら、捕まえるのも面倒......ふむ。
「よし、俺もついてくわ」
「え?」
「いや、ほら荷物おおかったら大変だろ? 俺の【異空間箱アイテムボックス】に入れれば楽ちんだし。 お手てフリーになるぜ。 良くね?」
「そ、それは良いのですが......そのお姿で王都の町中へ?」
いや、そりゃ流石にあれだよ。低級魔獣であるスライムとはいえ魔獣は魔獣。騒ぎになる。だから......よっと。
――ズズズ
頭をこうして、手をこう......えーと、あとは服か。
よし、こんな感じかね。
「す、すごい......人になれるのですね!」
白魔道士の姿をベースに人を再現。男、女どっちにも成れるんだが今回は女にした。
黒髪。けれど長いのはうっとおしいからおかっぱ的なボブ的な。服は旅人がよく纏っている外套で、目立たないよう黒(逆に目立つか?これ)
そんで目つきが悪いのはなおすことがなぜか出来ず、鋭く目尻が上がっている。これはこれで美人にはいらないか?はいらないかな......?まあ、いいや。
「まあね。 でもこの状態だと魔力保有量が人と同じになっちゃうんだ。 放出できる魔力量もね......あと肩凝るし窮屈だからあんまりなりたくない」
「......そうなのですね。 わかりました、すぐに支度します!」
「え、あ。 う、うん」
あ、そういう意味で言ったんじゃないんだが。なんだろうな。久々の人との会話は難しいな。
ずっと一人旅だった影響もあるけど。
しかし、なんだろうな。......この人間と話していると妙な気持ちになる。
「あの......」
くるりと振り向き彼女は俺の目を見つめる。
「ん、なに?」
「......お名前をお聞きしても?」
「......ノワル」
「ノワル、様ですね。 承知しました」
「様はいらないよ。 それとそのかしこまった話し方もうっとおしい......それ、やめない?」
「わ、わかりました......あ、いえ。 わかった、です......あっ」
う、うーん。
「......そういえば、おまえは? 白魔道士はコードネームだろ? 本当の名前は?」
彼女は少し驚いたような表情で目を見開き、こう答えた。
「私は......ミナトと、言います」
......。
「そうか。 よろしく、ミナト」
「はい、よろしくお願いします! ノワル様......あっ、すみま、ごめんなさい」
「......」
少女の姿に、重なる名。
不意に俺は「違う」と小さく呟いていた。
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