第7話 白魔導士
ラストは白魔道士。こいつを殺れば勇者パーティーが全滅だ。それにより俺の復讐は完了し、同時に【みんなのうらみ】の反動により魂が破壊される。
つまり、俺は死ぬ。
だがしかし、これで魔物が一方的に人を恐れ、無意味に殺される不遇の時代は終わる。この歪んだ世界が新たな......正しい姿に変わるんだ。
(......みんな、やったよ。 俺も......そっちへ逝くから。 リーナ、ミナト......褒めてくれるかな)
「ん......うっ」
「!」
白魔道士が目を覚まし、体をおこす。
外套がめくれて白い艶やかな長髪がさらりと落ちる。瞳も深い紅の色で、どこか優しい。
(なんか綺麗な人間だなぁ。 こんなの初めてみた)
「おはよう、白魔道士。 君は数年前に虐殺したスライム達を覚えているかい?」
「......あ、う、ぅあ」
あ、そうか。この目の動きをみるにこいつはある種の洗脳じょうたい。匂いからして薬物の類かな。
「この状態で殺してもなあ。 仕方ない、これも復讐の一貫だ......失礼するぜ」
疑似手を触手へ変身させて、っと。
少女のわずかに開いている口へスルリと侵入させた。
「うっ! むぅ、あっおボッ!? ううう!!」
「はいはい、苦しいだろうけど我慢だぜぇ」
俺の体組織を体中へ溶かし巡らせる。スキル【自浄再生クリーン】を持つ俺の体はあらゆる毒を浄化し、臓器等の損壊した部分を修復させる事ができる。
だからこいつの体に俺の細胞を巡らせる事で、この廃人状態を強制的に治しちまうってすんぽーよ!
うーん、なんてチート。
「よし、こんなもんかな。 魔力も少しわけたし」
「ごほっ、ごほ」
「さてさて、質問タイムいいかい。 お前はスライムの里を襲ったときの事を覚えてるか?」
「......はい」
「あの時、おまえは.......」
......あれ?こいつ、あの時なんかしたっけ?
里の皆を、誰かを殺してたか?......いや、してないよな。
「......?」
(......いや、でも殺さないと。 だってこいつも勇者パーティーの一人にはかわりないし)
「......あ、あの......」
「?」
「わ、私に、出来ることはありませんか」
「......出来ること?」
急に何を言い出したんだこいつ。
白魔道士は悲しそうな表情でいう。
「私、意識はあったんです。 まるで夢の檻から現実世界を眺めているような、そんな感覚ですが。 けれど、勇者達に殺されていく罪のない魔物や拷問のように苦痛をあたえられ死んでいった魔物......彼らを見殺しにしたことは事実です」
「まあ、ね。 でも、おまえどうなん? それ自力でどうにかできたん?」
「それは無理でした。 いえ、だからこそ......私は自由になれた今、魔物達へ何かをしたいんです」
確かに、直接手を下していないとはいえこいつも勇者の仲間、そして見殺しにしてきたことにはかわりはない。
しかし、ただ殺すのも勿体ないし何かわからんけど、妙な躊躇いがある。
俺が迷うなんて久しぶりだ。なぜか......処理しようという気持ちになれない。
しかたない。あれにでも利用するか。そして用が済んだら殺す。やはり相応の報いを受けさせないとな。勇者パーティーの奴には。
が、その前に。ただ命乞いをしているだけの場合がある。試すか。
「うーん。 魔物のために、か......じゃあさ、死んでみせてよ」
「......!」
「その死んだ君の首を持ち帰り、魔物達の怒りをおさめる。 勇者パーティーの白魔道士なんだ。 その効果は大きいと思う。 どうかな?」
と、言い切る前に。彼女は小さなナイフを首へ当てていた。
「.......私の命が必要でしたら、どうぞ」
「!」
首の皮膚から赤い雫がナイフを伝う。
彼女は震える小さな声で――
「お父さん、お母さん......ごめんなさい」
――そう呟いた。
――ずぶっ
「――!?」
俺は彼女のナイフが引かれる瞬間、触手でその手を止めた。
「な、なぜ」
......ちゃんと死ぬ気だったな、こいつ。
「うん、よし。 わかった。 もういいよ。 おまえの覚悟は本物だってことはわかった」
「し、しかし」
「やってもらいたいことがあるんだ」
「......? それは、いったい?」
「今はまだ言えない。 でも、ちょっと遠いところまで来てもらわなきゃいけないんだけど......来てくれるか?」
まあ、その最中に死ぬかもしれんけど、いいよな?人間だし。
「は、はい。 勿論です......!」
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