公衆伝播の太郎くん
和響
プロローグ
都市伝説を話す女
ねえ知ってる?
『公衆電話の太郎くん』って都市伝説。都市伝説なんて嘘ばっかりだって思うでしょ? でもね、この『公衆電話の太郎くん』はさぁ、なんか結構マジっぽいんだよね。え? 好きそうだもんねって? うんうん、そうそう、あたしそういうの結構好きだから。めっちゃ見るよ、そっち系のYouTube。仕事の休憩時間でも、布団に入ってからでも何時間でもエンドレスで見れちゃうよ。だって面白いじゃん、ちょっと怖そうで、そういうのってさ、ぞくぞくってするのがいいじゃんね。
え?
大体そういうのは噂レベルで本当じゃないって?
まぁ、確かに。でもさ、噂レベルでもさ、誰でも知ってるやつってあるじゃん。学校の怪談のトイレの花子さんだって、小学生だったらみんな知ってない? それに口裂け女とか、もうさ、口裂け女って聞くだけで、ああ〜はいはいって、わかるじゃん?
「わたしの顔、綺麗?」って言ってからマスクを外す、とか?
ほら、ね。知ってる話って結構多いと思わない? まぁ、でもそうだよね。実際に口裂け女に会ったって人とかいないし、それに会ってる人がいたら即効写真撮ってSNSにアップして誰かがバズってるだろうね。
でもさ、これは結構本当の話っぽいんだって。きっとみんなが知らないような都市伝説の方が本物なんだよ。
へ? それは都市伝説って言わないって?
あははっ、本当だぁ、そうかもしんない。誰かが誰かに話して広がっていくから都市伝説になるんだもんね。そうだな、じゃあこれはさ、言うなればこれから都市伝説になるんだと思うな。
だってね。
この話SNSで見つけたんだけどさ、太郎くんの事はぼかしてたけど、写真アップしてる人もいたんだって。いや、本当、マジで、なんだってば。
実際に太郎くんと話をしてるって人がSNSに書き込みしてたりしてさぁ。なんでもね、公衆電話で太郎くんを呼び出して、それでお友達になれるとね、その後の人生がその人のお望みのまま、ハッピーになれるとかなんだとか書いてあって。
あ、もう〜、またその顔。
胡散臭そうって思ったでしょ?
図星かっ! あははっ、てか思うよね、普通胡散臭いって。
実はあたしも思ったもん。
それに公衆電話なんて普通に見かけなくない?
ほら、今時はスマホみんな持ってるし、公衆電話なんて使ったことないじゃん。どうやってかけるかも意味不だよね〜。思わず〈公衆電話使い方〉とか検索しちゃったもん。いや真面目かって、ええ、あたしは結構そういうのは真面目なタイプなんだよ〜。ふふふっ。
話を元に戻そう。
でね、その書き込みしてる人のSNSを覗いていったわけよ。そしたらさ、マジで過去の投稿記事よりも今の投稿記事の方が明らかにハッピーな感じなんだって。嘘じゃないって。ほんと写真が全然違うんだって。
もう、信じてないな、その顔は。ちょい待ち、今スマホにその人のSNS出すから。え? フォロってるのって? もちろん! だって気になるじゃん。その人がその後どうなってくのか、とか。それでさ、めっちゃいい感じならあたしも太郎くん呼び出しちゃおっかな、なんて思ってて。だからずっと追っかけてるんだよねぇ。
えっと、で、どこだったかな……、あ、あったあった。
このアイコン、これだ。
この人だよ。
本人の顔は出てないけどさ、投稿写真みてって。
ほら、この人のね、ここから前の投稿はなんていうの、あんまパッとしないじゃんね。なんかその辺の風景とか、定食屋のご飯とか、ペットの猫とかじゃんね。そうそう、普通な感じ。でもね、ここから違ってくんだって。
いい?
みててよ?
その先だよ。
ほれっ!
どっからみても高級そうなホテルのビュッフェ、レインボーブリッジを眺めながらのクルージングパーティ、南国リゾートの砂浜でハワイアンブルーのカクテルドリンク! 凄くない? 前のとさぁ全然違うじゃん? え? もち、おんなじ人のインスタだって。むう、疑い深いなお主。本当なのに。じゃあもっとよく見えるように貸してって? スマホを?
もちろんいいよいいよ、スマホ貸すからちょっと辿って見てみなよ。これね、このアカウントね。
うんうん、確かにセレブな感じだよね、でしょう?
いやまじ、過去といま、すごい違いじゃない?
は?
どこにも太郎くんのこと書いてないじゃんって?
ふふふ、それは君、あれだよ。この人、インスタには太郎くんのこと載せてないんだって。だからその書き込みがしてあったSNSからインスタのアカウントをあたし、探し出したんだよね〜。もっと詳しく書いてないかなって思って。
暇人かっ!
あははっ、突っ込まれる前に自分でツッコミ入れといた。つっても、アカウント名が一緒だったからすぐ見つかったってだけのことなんだけどね〜。それに、『公衆電話の太郎くん』のこと書いてたSNSの方もね、今はその太郎くんネタの記事削除してるっぽいんだよね〜。
え、ちょまっ!
いまなんってった?
じゃあ太郎くんのおかげか分かんないじゃんって?
やだなぁ、ぜぇったい太郎くんのおかげだって。
だって、あたしはずっとこの人のSNS追っかけてたもん。
本当なんだって。
いや、マジで、なんだって。
あたしが思うにだよ?
この人、太郎くんのこと、もう人に教えたくないんだよ。だって、みんな幸せになったら嫌じゃん。自分だけ幸せの方がいいってきっと思ったんだよ。だからその記事を削除したと思うんだよねぇ〜。
ずるいよね、独り占めしようだなんて。
あたしならさ、みんなに話して広めてあげるな。
だからあたし、めっちゃ探したんだよね。
元ネタ。
どこに元ネタがあるんだろうって思ってさ。
そんでさ、やっとその元ネタと太郎くんをゲットする方法を見つけたんだよって話をね、今日は君にしたかったのだよ〜。その情報、結構信憑性高そうなんだよね。うふふっ。
そんなん信じてやって大丈夫なのかって?
もちろん、大丈夫だよ〜。
それにね、きっとこれさ、言わないだけでやってる人結構いるような気がするんだよね。だって元ネタだってさ、素人のあたしでも見つけれるんだしさ。そっち系、あ、そっち系ってのはオカルト系のYouTuberさんってことね。やってる気がしなくもないなって思ってさ〜。みんなに内緒で、自分だけ太郎くんのご利益にあやかろうって思うとさ、あんまYouTubeとかでも話さないんじゃないかなって。だって、みんなが知っちゃったらさ、チャンネル登録者を奪い合うことになりそうじゃん? 本当に良い話はみんなには内緒。そういう人、いると思うんだよね〜。
だからあたし、やろうと思ってるんだ。
『公衆電話の太郎くん』をやって、それでね、それで、こんな都会でも田舎でもない街とっとと抜け出して、東京で華やかに生きるんだ。お金持ちの彼氏とか見つけて、六本木とかの高級タワマンに住んで。一生幸せに暮らそうと思うんだよね〜。ふふふっ、楽しみ楽しみ。
へ?
本当にやるのって?
もちろんだって!
だって、言うてかかる費用は公衆電話で使う十円だし。
もしもこの話が本当じゃなくても、十円だしね。
やってみるだけの価値はあるじゃんね?
たった十円で望み通りの人生を頂けちゃうなんて最高じゃん!
それに公衆電話も見つけたんだ。
だからさ、今日の夜にやってみるつもり——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます