第28話  後悔は先に立たないのです

 私がボジュロフ帝国から嫁いで来た際にも、大々的なパレードを行う事となったのだが、

「あれが・・新しい王太子妃様?」

「あれが?」

と言う疑問符を頭に浮かべる民衆からの出迎えを受けたものだった。


 美しいが全てのアルンヘム王国では、王家に嫁ぐ娘は女神の祝福を受けていると豪語できるほどの美女ばかりが嫁いでいたため、私のように地味な顔の女が嫁ぐなどという事は、記憶する限りはなかった事らしい。


 だがしかし、美しいが全てでやってきたが故に内政にはカケラも関心を向けないアホばかりの集まりと化した王家は、国をズタボロにしてしまった。その為、王国として独立を維持するためには、美しいとか美しくないとか、そんな事を言っている場合ではない。


 明日には隣国タクマウに滅ぼされるかどうかという瀬戸際の中、顔はどうであれ、帝国の姫である私はコルネリウスにとって必要な伴侶ではあったのだろう。


「大丈夫!大丈夫よ!王妃様の時には生卵を投げつけようとする民衆もそれなりにはいたみたいなんだけど、今はそんな事はないから大丈夫!」

「そんな悲壮な顔をしないで!ねえ!私たちだってパレードをしたけど、無事に生きて帰って来たもの!大丈夫よ!」

「アラベラ様は可愛らしいから大丈夫よ!民も大喜びで歓声を上げるに違いないわよ!」


 花嫁姿のアラベラを取り囲むのは、私の三人の息子の嫁たちなのだが、彼女たちもまた、王子妃として嫁いだ際に、王都を一周するパレードに参加させられているため、いたたまれない思いを経験してきた猛者でもある。


 私の息子達は美しいが全てとはならず、完全なる実力主義で育てているため、伴侶も有能さが一番、美しさは二の次で選んでいるため、パレードでは嫌な思いをしてきた面々でもある。


 王家主導の元、加護の力をもつアラベラとアティカスの結婚の儀は大聖堂にて大々的に行われる事となったのだが、この後二人は、王家の庇護の元、大々的なパレードを行う事になっている。


 二人の結婚を王家が認めたものとする事で、加護持ちを狙う周辺諸国への牽制をするのと同時に、加護持ちと庇護者である二人の顔を周知させる事によって、国民に美しさが全てではないと周知させる目論見もある。


「王妃様!私は自分にできる事は何でもやりますとは言いましたけど!まさか!そんな!パレードだなんて!そんな!そんな!」


 何でもやると言い出したアラベラの心意気を汲んで、私はパレードを決定したのだが、どうやらアラベラには不満があるらしい。


「別に、加護持ちっていっても可愛い程度で、絶世の美女とかじゃないんだぞ?美しいが全てなんて違うんだぞと、アピールしながら回るだけじゃないか?」

「それが嫌なんです!他の事なら何でもやりますからパレードだけはやめてください!」


 必死に訴えるアラベラを横から抱きしめながらアティカスが言い出した。


「アラベラが俺のものだって王都に集まった全ての野郎どもに宣言してまわるわけでしょ?こんなに美しいアラベラが俺の嫁だって宣言しながらパレード出来るなんて!俺はなんて幸せ者なんだ!」


 うっとりとした顔で宣うアティカスの姿を見て、過去、自分の悲壮感など一切気がつかない様子で浮かれる夫の姿を思い出したのだろう。


「うちの夫と同類だわ」

「自分の妻が一番美しいと考えているのよ」

「自分が一番美しいと思っているんだから、他の奴らが何考えてたって何の問題があるんだって言い出すあれよ!ゾッとするわ!」


と、三人の嫁が顔をくちゃくちゃにしながら言い出した。


 王家の人間が結婚の儀式を終えた後にパレードをするのはいつもの事ではあるが、王家とは何の縁もないアラベラとアティカスのパレードについては、文句を言い出す貴族もそれは多かった。


 幾ら加護持ちだと言ったところで、

「それほど美しくもない娘をパレードさせたところで、誰が喜ぶと言うのです?」

と、古参の貴族が言い出した時には、面白い事になるだろうと確信を持ったものだ。


 案の定、そう宣った貴族の領地には星が落下した。

 領主の館を中心に流星は落下し、大きな被害を出したのは言うまでもない。

 ユトレヒト公国では、アラベラ嬢の誘拐がきっかけで星が落下し、王位継承第一位だったサムヘン・ナット王子が死んだのは有名な話だ。


 そうして、陰でアラベラの容姿を笑った貴族達が相次いで病に倒れた。

 性病を患っていた者はみるまに悪化し、顔にまで症状が出る者が続出した為、罹患者はアビントン侯爵家の悲劇が頭に浮かんだことだろう。


 そうして、加護持ちと庇護者については、誰も何も言わなくなったのが現状でもある。


「アラベラ様、そんなに悲壮な顔をしないで!二人の門出を祝うために僕が居るんですから!」


 ユトレヒト公国からやってきたレーン王子は琥珀色の瞳に笑みを浮かべると、両手を空に掲げて光の粒を撒き散らした。

 妖精の加護を持つ王子の指示で、無数の妖精が二人を祝福するように集まり、光を瞬かせ始める。


 そうして、妖精に囲まれながら馬車で二人は出発する事になったのだが、

「笑顔よ!あんた!こんな時に笑顔を浮かべないでどうするのよ!引き攣ってるわよ!」

と言う小さな妖精にハッパをかけられながら遠ざかっていくアラベラの姿を見送ると、


「公国のレーン王子よ、貴様の国のあり方については色々と思うところもあるのでな、ちょっと時間を取って話し合いをしようじゃないか」

と言いながら、少年の肩をむんずと掴んだ。


「お母様ったら、今度は隣の国にまで物申すつもりだわ!」

「女性の人権擁護に余念がないのよね」


 後ろで嫁が何が言っているようだが、聞こえないふりをしながら次期公王を囲い込む。


 美しいが全てのこの国の価値観をようやっとぶっ壊すことに成功したようだから、次は隣国の意識改革に着手しても良いのかもしれない。 


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