第15話  今現在どこにいるのかわかりません

 シンデレラの物語みたいに、母が後妻で妹が母の連れ子だというのなら、私が家族から疎まれてここまで迫害されるという理由もわかる気がするんです。


 先妻との間に出来た要らない子供の私が、婚約者を妹に奪われた上で伯爵家から追い出されるなんてシュチュエーション、三年くらい前に王都で流行した恋愛小説とまるまる同じ展開ですよ。


 小説の中では、ヒロインは侯爵家の令嬢でしたし、婚約者は王子様だったんですけどね。婚約者は妹と浮気の末、邪魔になった姉の方が物凄い悪い人間だったと断言して婚約を破棄し、侯爵家を追い出された令嬢は、街で運命的な出会いをするわけですよ。


 小説の中では、その運命的な出会いをしたお相手は隣国の王子だったんですけどね?私が家を出てまずご挨拶をしたのは、セグロ商会の会頭であるコーバさんだったので、男性だけど男性を愛するコーバさんは、私の運命の相手って事じゃないでしょう。


 お父様の気が変わって伯爵家に連れ戻されるかもしれないし、殺されるかもしれないし、今度こそは、金持ちのヒヒジジイの後妻として売り飛ばされるかもしれないから、しばらくの間は商会から出かけない方が良いとコリンナにも言われていたのですが、どうやら私は金持ち高齢のヒヒジジイの所ではなく、隣国の王子様の所に売り払われたようです。


 小説の中では、隣国の王子が健気に生活をしていく侯爵令嬢を街で見かけて一目惚れするわけですが、

「最初はサムヘン殿下が美味しくいただいちまうんだろうが、2番目、3番目は、予め順番を決めておいた方が良いよな」

肌の色が浅黒いし、やたらと濃い顔立ちをしているし、デイシュダーシャと呼ばれるストーンと足元まで隠れる長袖のワンピースのような民族衣装を着ている事から判断するに、砂漠の国でもあるユトレヒト公国の人だと思います。


 メイドのナビエラに呼び出された私は、妹のオリビアに売り飛ばされたのだと思います。麻の布袋に入れられた後は、荷馬車に乗せられて移動、移動、移動、道中、頭がぼーっとなる薬のような物を飲まされていたので、寝てばかりいたとは思うのです。


そうして気がついたら、タイル張りのベッドだけがドンと一つだけ置かれた部屋に寝かされていて、私の周囲に集まった男たちが明らかに下品極まる笑顔を満面に浮かべながら、順番がどうだとか、サムヘン殿下がどうだとか言っているわけですよ。

ここが何処なのかさっぱりわかりません。


私の両手首と足首には金属の枷がつけられていて、鎖がベッドの足の方まで伸びています。

「う・・うー〜〜ん」


 サムヘン殿下、サムヘン殿下、サムヘン殿下というと・・ユトレヒト公国の王子であるサムヘン・ナット・ユトレヒトの事よね?


その王子様が一番目で、2番目、3番目、4番目を決めるために、男たちがじゃんけんを始めているんだけど、これって本気でやっているのよね?


「なあ!なあ!とりあえずいれなきゃいんだろ?味見だけでもダメなのかな?」


 じゃんけんに参加していない、頭の悪そうな男が私の顔を覗き込みながら言うと、スカートの中に手を入れてこようとしたので、足をバタバタさせてみました。


 何故そこで嬉しそうな顔をする?

 何故、両足を掴もうとしているの?

 怖い!怖い!怖い!怖い!


「怖い!怖い!助けて!助けて!助けて!助けて!」


 恐怖で震え上がり、悲鳴に近い声をあげると、両耳のピアスから何かの光線が一直線に走り出した。


 私のピアスは元婚約者のアティカス様がプレゼントしてくれたのか良くわからないけれど、いつもの一文のみの手紙の中に、間違って紛れ込んでしまったような形で、何のラッピングもしていないような状態で入っていたもので、コリンナ曰く、私の誕生石で作られた安物だっていう事らしいので、安物なら良いかと思い、今まで外す事なく付けていた物なのよね。


 そのピアスから一直線に光が走ったかと思うと、壁を通過して行ったように見えたのよ。

「えええ?」

 私が顔を動かすと、その光線も動いて、タイル張りの壁を真っ直ぐに切断していく。

「えええええええ!」

 びっくりして仰向けに倒れると、光の光線が壁から天井まで走り抜け、光線に切り裂かれた壁や天井が煙を上げて落下する。

 

「ぎゃああああ!」


 私の足を捕まえようとした男は、どこかを切ったのかベッドの下に倒れ込み、じゃんけんをしていた男たちは、壁の下敷きになっている。


「何!何!何!何!」

 ピアスから出ていると思われる光線は、問答無用で周りを切り裂いしまうから、部屋を倒壊させた後に、思わず唾を飲み込みながら息を止めた。


 何か良くわからないけれど、この光線、めちゃくちゃ切れ味が良いらしい。

 この光線が出ているうちに手枷、足枷を切断したいけど、上手いことやらないと私の手と足が切断される事になる。


 今が逃げるチャンスだと思うけど、この光線、どうしたらうまく使えるようになるんだろう?

「誰か助けてーーーーーー!」

 男たちに陵辱されるなんて冗談じゃないし!部屋を壊した罪に問われるのも嫌だわ!


「誰かーーー〜!」

 これ以上、光線で破壊行為を続けると、倒壊に巻き込まれて死ぬなんて事もあり得るわよ!


「誰かーーー!」

「お姉さん!お姉さん!動かないで!今その魔石の出力をオフにするから動かないで!」


 ベッドの下から這い出るような形で出てきた少年が、何事かを近くの何かに訴えると、ピアスからの光線がフッと消えて、何かのスイッチを押したかのように手枷、足枷が外れて落ちた。


「お姉さん、僕はレーン・ナット・ユトレヒト、この国の12番目の王子で貴女を助けるためにここまで来ました」

「王子様?」

「兄のサムヘンは貴方を複数人で陵辱し、精神を破壊した上で自分の支配下に置こうとしているんですけど、愛し子にそれやると世界が滅びるので、僕が助けに来た次第です」


 漆黒の髪に琥珀色の瞳の少年は私を助け起こすと、少年の肩に止まった何かが、キンキン声で言い出した。


「庇護者のパワーを感じたけど、やり方が無茶苦茶じゃない!私まで死にそうになったわよ!」

 よくよく見ると、人差し指くらいの大きさをした何かで、光に包まれているので、それが何なのか良くわからない。


「こいつは妖精のエナです」

「妖精?」

「僕は妖精の加護を持っているんです」

「妖精の加護?」


 世の中には色々な加護を持っている人が居るとは聞いているけれど、まさか、生きている間に自分以外の希少な加護持ちに会えるとは思いもしなかった。


「兄がここまで来たらアウトなんで、すぐに逃げ出しましょう」

 12番目の王子様はそう言って、私が立ち上がるのを手伝ってくれました。

「加護持ちの僕は兄の監視下に置かれているんですが、今だったら混乱に乗じて逃げ出すことも可能です」


 ピアスからの光線は、どうやら近くの建物まで切断していたらしく、外が大騒ぎになっているのが良くわかる。


「ほらっ!大勢の人間がこっちに向かってくる気配を感じるわ!早く動かないと手遅れになるわよ!」

「ええええ?」

「あんた!手篭めにされたいの?」

「いやです!手篭めはいやです!」

「じゃあ!今すぐ走りなさい!」

「はい!」


 どうやら光の塊にしか見えない妖精が道案内をしてくれるようなので、私とレーン王子は、崩れた壁や崩壊した天井を乗り越えながら逃げ出したのだった。

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