第14話 妖精が命令するのには
「バルトルト、お前が連れてきた娘は本当に加護持ちなのか?」
「ああ、そうだ。加護を持っているとされている」
「オルコット家は加護の力が消失したんじゃないのか?」
「おそらく先祖返りじゃないかという話だ」
「どの程度の加護があるかわからないんだよな?」
「それは、これから調べて行くしかない」
金髪碧眼のやたらと美しい顔の男はニヤリと笑うと言い出した。
「お前たちで娘を慰み者にして、身体的にも精神的にも支配下に置いて、奴隷として使いやすい商品に仕上がるようにして欲しい」
「俺は娘の加護の力を独占しようとするかもしれないぞ?」
「いいや、それは出来ないはずなんだ」
「はあ?」
「王家に残る伝承によると、最後のひと仕上げは我が国の王家の人間が施さなければ効果が発揮できないようになっている。つまりは、お前は私と手を組まない限り、加護の力を利用することが出来ないわけだ」
「意味がわからねえな」
「オルコットは刺繍を施す事によって、加護の力を発揮する。その、最後のひと仕上げだけは王家の力が必要なんだよ」
「クソ面倒臭えな」
軍服を身に纏った男は、漆黒の髪をバリバリと掻きむしると、金髪の男を睨みつけるようにして見つめた。
「おめえが最後に手を加えなくちゃいけねえのなら、おめえが娘を手籠にすりゃあいいじゃないか?支配下に置いて、お前好みに洗脳するだなんて事は簡単な事だろうに」
「私は醜い女は抱かない主義なんだ」
男はあっさりと断言すると肩を小さくすくめて見せた。
「娘の家族曰く、複数人でめちゃくちゃにした上で、精神的に殺した状態とした方が加護の力が強くなるらしい」
「それ本当かよ?頭が狂って加護の力が消失しても意味がねえんだけど」
「そこはお前の匙加減に任せるとしよう。私は加護の力をお前と共有する代わりに、お前の国の戦力の一部を私に貸し与えてほしい。私がアルンヘムの王となった暁には、国土の一部をお前の国へ譲り渡そう」
「辺境伯は国王派だからいらねえってか?」
「辺境伯は醜い老爺だからいらないのだよ」
「美しいが全てってか?全く、アルンヘム王国は相変わらず頭がおかしいな」
継承権第一位のサムヘンの声を後に聴きながら、秘密の通路を這いつくばるようにして進んでいく。
アダルマトの離宮はアルンヘム王国との国境近くに位置しており、戦時となれば要塞にもなる、無骨な作りと豪奢な装いが渾然とした建物となっている。
砂漠の国であるユトレヒト公国は、多部族による統治がなされていたのだが、勇猛なる公王ユトレヒトの蜂起によって、一つの国へと纏まる事になったという歴史がある。
武の神アペトスの申し子とされたユトレヒトの子孫が、現在の公国をまとめ上げており、公王は複数の部族の女を娶ることで、安定した治世を送る事が出来ているのだった。
今の公王も十人の妻を娶っているが、サムヘンは3番目の妻の子供であり8番目の王子でもあった。
ユトレヒトの継承争いは熾烈を極めるのは有名な話で、戦争や暗殺によって次々と王子が亡くなった為に、現在はサムヘンが継承第一位の地位について、次期公王としての呼び声は高い。
這いつくばるように秘密の通路を移動している僕はレーン、辺境にあるハビナビ族の族長の娘と公王から産まれた12番目の王子、今の継承順位は五位といったところ。
末端王子のため、雑用扱いで戦地に連れてこられるのはいつもの事で、加護の力を持つ僕がサムヘンの都合の良いように使われるのもいつもの事。
僕は妖精の加護持ちで、妖精と会話をする事が出来るのだが、
「ねえ!早くしてくれない!急いで助けないと、愛し子が男たちに蹂躙される事になっちゃうんだからね!そこんところわかっているの?」
目の前を飛ぶ妖精のエナが怒りの声を上げながら僕の方を振り返った。
これ以上の継承争いは無駄な事だと判断した兄のサムヘンが、父である公王に毒を盛りはじめて半年近くが経過しようとしている。
少しずつ毒を与えながら、病と称して殺すつもりだったサムヘンは自分の悪巧みがバレないようにするために、僕を離宮へと監禁する事にしたわけだけど、公都から飛んできた妖精によってバレたんだよね。
僕は密かに父に連絡を取って毒についての報告をしたんだけど、父は僕に対して兄のサムヘンを見張るように命令してきたわけだ。
父は僕みたいに妖精と話すことは出来ないけど、英霊と話すことは出来るんだよね。
父の命令っていうか、英霊の命令にしたがって僕はアルンヘムとの国境にある離宮に居続けたわけだけど、そうするうちに、アルンヘム人の男と一緒に兄がやってきて、女を洗脳するとか、複数で凌辱するとか、恐ろしいことを言い出したわけだ。
その娘は愛し子、要するに天母神レオーネに愛される子供って事だから、不埒な真似をしたら星が大地に落下してきて、世界が滅びちゃう事になるかもしれないって。
「早く!早く!」
妖精はいいよな〜、狭いところでも飛んでいけばいいんだからさ!
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