第10話  俺の誓い

「俺は現在、研究中の呪術刻印を完成させる事で、アラベラ以上の力を手にする事を誓います」


 元々、アビントン侯爵家は錬金術を得意とする家系だったため、俺は父方の祖父に錬金術の手解きを受けていた。その関係で、陛下とも顔見知りの間柄だった為、このようなチャンスを与えられる事になったわけだ。

  

「そもそも、王弟ブロウス様は、臣籍降下した後も王位の簒奪を企んでいるような方でございましょう?」


 陛下の子供たちは皆、結婚して子供も居るような状態のため、アラベラは年齢的に今の王家に嫁ぐ事は不可能だ。 


 唯一、結婚が可能なのは公爵家の嫡男バルトルトという事になるのだろうが、バルトルトと結婚してアラベラを取り込んだとしても、その先にあるのは、加護の力を使った公爵家によるクーデターと王位簒奪の未来しかないだろう。


「錬金術師アティカス、お前は公爵家だけでなく、他国をも唸らせるだけの力をつけられるのか?」

「つける事が出来ると断言いたします!」



 陛下にハッパをかけられた俺は、錬金術師としての新しい技術の獲得と共に、アラベラの力が表に出ないようにあらゆる策を講じることにしたわけだ。


 加護が発現したとなれば王家としても加護付きの品は是非とも欲しい。

 王都で急成長中の商会に目を付けた俺は、俺が魔法陣を施した商品を売りに出すのと同時に、王家からアラベラあてに発注を受けた加護付きの商品については、俺が魔法陣を施したという態にして卸す事にした。


 オルコットの加護の力が消失して以降、加護の力の代わりに発展したのが錬金術であるというのは平民でも知っている事だ。だから、加護付きの作品でも、錬金術の応用という事で周囲を納得させる事が出来たわけだ。

 

 俺は苦心してアラベラの婚約者で居続けたわけだから、毎日でも良いから彼女に会いに行きたかった。だけど、国王がそれを許さなかった。


 俺が離れ家を出入りするだけで、誰かの目がアラベラに向けられるかもしれない。それを防ぐために、妹のオリビアに媚を売っているという風に見えるようにしてオルコット家に出入りをして、アラベラの安全を確認し続けていたわけだ。

加護の力を発現したと公表して保護をしないのであれば、どこまでもアラベラを隠し続けろと王は言うわけだ。


 アラベラとの文通は許されたが、誰が目にするか分からないという理由から、返事は短い一文だけ。

 実際に俺の手紙はオリビアが開けて確認しているようで、俺のそっけない手紙に家族全員が嘲笑を浮かべているらしい。そっけない手紙だからこそアラベラの元まで俺の手紙は届くし、アラベラの手紙が俺にも届けられる。


 アラベラの顔を見られるのは夜の彼女が寝入った時だけで、彼女は俺が会いに来ている事実を知らない。

「淑女の寝顔を見るのはどうかと思いますけどね?」

と、コリンナは苦言を呈するけれど、昼間に会えないんだから仕方がないだろう。


 一番、無難な未来は、兄がオリビアと結婚し、俺はアラベラと結婚してオルコット伯爵家を継ぐ。

 爵位を継いだらアラベラがオルコットの加護持ちだと公表して社交界に復帰する。アラベラを貶めたオリビアの両親はアビントン侯爵領に追放して、綺麗なものが好き同士で余生を過ごして貰えば良いだろうと思っていたわけだ。


 サイラスがオリビアとの結婚がほぼ決定していた状態だったというのに、横槍を入れて来たのがダニング伯爵だ。全てをぶち壊されたのだから、それなりの報復はしなければならないだろう。


「ちなみに、お前の兄であるサイラスと結婚する予定のキャスリン嬢の報告書がこれだ」


 国王は全てを心得ている様子で、報告書を俺に渡しながら言い出した。


「キャスリンが孕っているという理由で、婚約期間も最短で済ませてひと月後には結婚させるという事だが、アビントン侯爵家はキャスリンの美しい容姿しか気にしていないように見えるな」


 美しいキャスリンを公爵家に嫁がせようと企んでいたダニング伯爵が、何故、娘をアビントン侯爵家に嫁がせる事にしたのか、報告書を読んで理由がわかった。この事実を知らないという時点で、侯爵家は終わっていると言えるだろう。


「弟であるブロウスの野望も潰えるようなこともないようでな、伯爵家を出たアラベラを拘束するために人を動かしているし、オルコット伯爵家は、オリビア嬢に爵位を継がせるために、アラベラ嬢に向けて暗殺者を放っているようだ」


「そうみたいですね」


「隣国、ユトレヒト公国も加護持ちの噂を聞いて、暗部を動かし始めている。あそこは昨年の不作が打撃となって、国庫の目減りも著しいものがある。国民の不満感情をそらすために他国への侵攻を企んでいるし、侵略戦争を完全なものにするために、加護持ちを取り込みたいと考えている」


「もう、俺の好きにして良いって事でいいんですよね?」


 俺はね、もう、本当に死ぬほど我慢してきたと思うんだよ。

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、ニコニコ顔の陛下は立ち上がると、俺の肩をバシバシと叩きながら、

「王家が損を被るような事がなければ、何でも好きにやっちゃっていいよ〜」

と、砕けた調子で言い出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る