第4話 カビとごみ屑の婚約破棄
見かけで判断するうちの親が異常だと思っていたのだが、オルコット家もうちと同じように見かけで姉妹を差別するんだよな。伯爵夫妻は、美人で可憐で天使だとか言われるオリビアが可愛くて仕方がないわけだ。
幸いな事に、オルコット伯爵家とうちの父親との話し合いの末、俺とアラベラの婚約はあっという間に決まった。向こうは侯爵家と縁を作りたいし、侯爵家としては伯爵家との共同事業で、多額の金を引っ張り出したい。
あとは、俺の母親の発言が決め手になったみたい。
「ごみ屑令嬢と黴みたいな息子だったら、見かけ的にも丁度良いんじゃないかしら!」
一応は伯爵家の令嬢なのに、ごみ屑令嬢とおおっぴらに言い出すあたりに、母の頭の悪さを感じるよな。
そんな訳でアラベラの婚約者となった俺は、オルコット伯爵家に出入り出来るようになったわけだ。そういった訳で、アラベラを連れて外に出かけられるようになったのだが、出かける度に、妹のオリビアが引っ付いて歩くようになったわけだ。
あくまで見かけにこだわる母親は、兄の妻は最高に美しい人でないと駄目だと断言しているため、兄のサイラスにはいまだに婚約者がいない。
ただ、オルコット家の次女オリビアは、顔だけを見れば、どの集まりでも1番の美しさであった為、サイラスの婚約者候補としてキープする事にしたらしい。
サイラスの婚約者候補だという事もあり、邪魔なオリビアをなかなか無碍にすることも出来ず、そうするうちに、会いに行けばアラベラに会えず、オリビアが出てくるようになってしまったのだ。
「サイラスの妻に相応しい令嬢が未だに見つからない状態だから、もしかしたら、オリビアが侯爵家に嫁いでくるかもしれないのよ?だから、オルコット伯爵家に行った時には、アラベラよりもオリビアを大事にしなさい」
俺の母親は完全に頭が沸いているんじゃないのかな。
俺がアラベラと結婚して伯爵家を継ぐっていうのに、なんで妹の方を大事にしなくちゃいけないわけだ?
プレゼントを片手に伯爵邸を訪れた俺に対して、
「そのプレゼント、オリビアが喜ぶと思いますよ」
オルコット伯爵はニコニコ笑いながら俺を見下ろすと、
「サイラス君がオリビア以外の令嬢を妻とする場合には、アティカス君はオリビアと結婚してこの伯爵家を継ぐことになるからね」
意味不明なことを言い出した。
そうするうちに、アラベラは母家から離れ屋へと移動させられていたらしく、会いにいけば、オリビアがまるで俺の婚約者とでもいうような素振りで現れるようになった。
一応、婚約者候補という事もあって、兄のサイラスも伯爵邸を訪れる事もあるのだが、そうなると、両手に花とばかりに俺たちを引き連れて歩き、アラベラが居る離れの方へと向かっていくわけだ。
「羨ましいでしょう!」
とでも言いたいのだろうか、見かけは天使と言われているのは知っているが、中身はうちの母親とおんなじでクズなのは間違いない。
アラベラをオルコット伯爵家から救い出すために、あれやこれやとやっているうちに、アラベラと一夜の関係を持ったと証言する人間がポロポロと、まるで仕組まれたように出て来る事になる。
下世話そのものの噂話は、暇を持て余す貴婦人たちへ伝播するように伝わり、あっという間に社交界に広がっていった。俺がその不穏な動きに気がつくのが、あまりにも遅くなってしまったのは、他国に出向いていたんだから仕方がないことだよな。
「お前も、アビントン侯爵家のことを考えてみろ?悪女と噂されるアラベラ嬢とお前が結婚するなど世間体が悪すぎるのは間違いないだろう」
執務室で葉巻に火をつけてその煙を口に含んだ父が、純白の煙を吐き出しながら、したり顔で言い出した時には首を絞めてやろうかと思ったものだ。
「アティカス、お前はオリビア嬢と結婚してオルコット伯爵家を継ぐことになった。アラベラ嬢には婚約破棄の旨はすでに知らせている」
「オリビア嬢は、兄上との婚約が決まったようなものでしたよね?」
「サイラスはキャスリン・ダニング嬢と結婚する」
「はあ?」
「フランチェスカも随分と乗り気なのでな。我がアビントン家としても、ダニング伯爵家とオルコット伯爵家、二つの家との縁が結ばれればそれで良いと考えている」
結局父は、母の言いなり状態となってしまうのだな。
母がキャスリン・ダニングの美貌を気に入ったというのなら、兄の妻はキャスリンで決まりだ。婚約者候補のオリビアと俺を一緒にして、アラベラを排除する。
兄の恋人が理由で俺からアラベラを取り上げるというわけだ。
父の執務室を出た俺が、兄からも話を聞こうと2階へと続く階段を駆け上がると、廊下の奥、扉が少し開いた兄の部屋の方から、母と兄の声が聞こえて来た。
「男遊びをしていたのは、姉のアラベラだけじゃなく妹の方もそうだったなんて、全く信じられない話だったわね!」
「ええ、ダニング伯爵から聞くまで気が付きもしませんでした。オリビアがすでに純潔を失っていようとは想像もしませんでしたよ」
「早いところ気がついて良かったわ!この事は向こうのご両親にも知らせたし、婚約者の挿げ替えはスムーズに出来そうよ」
「私が書いた手紙をオリビアに持たせたので、アラベラも婚約破棄に応じるしかなくなるでしょう」
「貴方は字を模するのが得意だものね、だったら安心だわ」
「私も早くキャスリンと結婚しなければなりませんからね、彼女のお腹の中には僕の子供が居るんですから」
「そこは考えているわよ」
どうやら、婚約者でもないキャスリンと兄は深い関係となり、キャスリンが身籠ってしまったらしい。兄がキャスリンと結婚すると婚約者候補だったオリビアが宙に浮いてしまうため、俺にあてがって伯爵家を継がせて、アラベラと俺との婚約は破棄する事にする。
結婚前に自分以外の異性と不貞行為を行ったオリビアのことは許さないが、自分の不貞は問題ないというんだな。そうして実際に男関係が派手なオリビアを俺に当てがい、男関係は派手だと噂されるアラベラを弾き出す。
元々、伯爵家は俺とオリビアを結婚させるつもりのようだったから、今回の俺とアラベラの婚約破棄は既定路線ということなのだろう。
俺がオルコット邸を訪れてみれば、アラベラはすでに家を出て行った後だった。
「錬金術師(アルキミスト)アティカス様!お姉様が出て行っても私が貴方を慰めてあげますから!」
アラベラと同じ青灰色の瞳で見上げてきたオリビアは、その美しい顔に醜悪な笑みを一瞬浮かべた事には気が付いていた。
つまりはあれだな、俺がカビならアラベラはゴミ屑で、そんな二人であるならば、自分たちの都合の良いように使って良い。人生を歪ませても良いと、こいつらは、そんな風に簡単に考えているという事なのだろう。
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