第2話 人は見た目が100%
オルコット家は妹のオリビアが美人で有名ですが、アビントン侯爵家は長男のサイラス様が美男で有名なわけです。
アビントン侯爵家は奥様が社交界の宝石と呼ばれるほど美しい方であり、物凄く美に執着している方なのです。
夫となる侯爵様は美男!というほど(失礼な言い方ですが)美男ではないです。男らしい顔立ちの方で、家柄の良い方々の中では一番、見れた顔だと判断された結果、奥様は輿入れされたのだそうです。
男らしい顔立ちの旦那様と美しい奥様との間に生まれたサイラス様は、神が丹念に創造したと言われるほど美しく、奥様を超えるほどの完璧な容姿をされていたわけです。
武術も好んで鍛錬された結果、無駄な筋肉など一つもないというような均整が取れたスタイルで、年頃の令嬢はすぐさま夢中となったそうです。
現在、十九歳となったサイラス様なのですが、サイラス様に見合った令嬢がなかなか見つからないという奥様の判断の元、侯爵家の嫡男でありながら現在も婚約者不在の状態となっています。
婚約者は不在なのですが、見目麗しい令嬢を何人かキープしているような状態なので、妹のオリビアも婚約者候補として名前が上がっているような状況です。
サイラス様はお母様以上に美しく生まれ出たのですが、弟のアティカス様は父方の血を濃く引き継いだのか、無骨な顔立ちは曽祖父に良く似たもので、美しさからは程遠いと判断されて、奥様から疎まれながら成長したという事になります。
見た目が全く麗しくない、ごみ屑令嬢と言われた私とアティカス様の婚約が六年前にあっさりと決まったのも、
「かび令息と言われる息子にはごみ屑令嬢くらいが丁度良いじゃない!」
という奥様の鶴の一声によるもので、侯爵様としても、羽振りの良いオルコット伯爵家であれば婿入りさせるのにも丁度良いだろうと判断されたみたいです。
常に兄と比べられて育ったアティカス様は、ジメジメして陰気なところがカビみたいって言われているらしいです。ごみ屑令嬢という呼び名もどうかと思いますけど、かび令息って言われるのもどうかと思いますよ。
貴族の世界では見た目だけで判断されるので、中身なんて関係ないって事なのでしょうけれど、酷い話ですよ。
そんな訳で、オルコット家としては見目麗しいサイラス様と妹のオリビアが結婚してアビントン侯爵家を継ぎ、ごみ屑令嬢の私がかび令息と言われるアティカス様と結婚してオルコット伯爵家を継ぐという形が既定路線となっていた訳ですが、醜い私を心底嫌っていた両親が、このまま話を進めていくのかな?と、疑問に思っていたわけですよ。
そもそも小さい頃から疑問に思っていたんです。
私って本当にこの両親の子供なのかな?
私は拾われた子で、両親の子供はオリビアだけなんじゃないのかなって。
子供の時には何度も質問しましたよ。だけど返事はこんな感じで、嫌いではないと言いながら、絶対に好きだとは口にして言わないのです。
「お父様は私のことが嫌いなの?」
「こんなにアラベラの事を愛している父に向かって、疑問に思うこと自体が信頼関係を損ねる行為だよ」
「お母様は私のことが嫌いでしょ?」
「まあ!そんな事を言われるなんて心外だわ!」
「オリビアは姉である私が嫌いでしょ?」
「私は嫌いなんて言わないわよ!」
両親と妹は、私の事を心底、疎ましい存在だというように見つめながら、家族の絆から排除する。
そうして十八歳の誕生日を迎えた日に両親が渡して来たのは、婚約者であるアティカス様からの手紙でした。
「さあ、見てごらんなさい。アティカス様からの手紙にも書いてあるでしょう?貴女のようなふしだらな女にはうんざりだと、貴女のような女ではなく清純そのもののオリビアに癒されたいのだと。貴女は自分には相応しくないのだから、ここで婚約を破棄して、オリビアと新たに結び直すと書いてあるでしょう?」
私を排除しようと企んでいた両親は、社交界に私を出す事などしていないのに、私の悪い噂ばかりを流しているような状態で、いつの間にか私は、毎夜、毎夜、男の人のベッドを渡り歩く悪女のような女として噂されるようになっていたのでした。
婚約して六年の付き合いになるアティカス様ですが、渡されたお手紙には、ふしだらな私となど結婚は出来ないので、妹のオリビアと結婚する事にしたという内容のものが記されていました。
「私とアティカス様が結婚するというのに、毎夜、何処の男と関係を結んでいるかも分からないお姉様が親族として参列する事は許されない事じゃないかしら?」
頬を膨らませて訴える可愛らしい妹の声に、両親は頬を綻ばせました。
「ええ、本当にそうよ!オリビアの言う通りだわ!」
「アラベラ、ふしだらなお前を伯爵家から追放処分とする。今すぐこの家から出ていくように」
「男の友達が多いお姉様なら泊まる場所には困らなそうね!」
「ああ!本当になんて汚らわしい娘なのかしら!さっさとこの屋敷から出て行ってちょうだい!」
結局、兄のサイラス様はダニング伯爵家の娘を娶ることになり、弟のアティカス様はオリビアと結婚してオルコット伯爵家を継ぐ事になるようです。
きっと、アビントン侯爵家の奥様が、見目麗しいオリビアをキープしていただけであって、オリビア以上の美女を見つけた後は、アティカス様とオリビアを結婚させるつもりでいたのでしょう。
父と母としても嫌っている私が伯爵家を継ぐよりも溺愛しているオリビアが継いだ方が嬉しいでしょうし、アティカス様としても、ごみ屑令嬢と結婚するよりもオルコット家の天使と結婚した方が嬉しいに決まっています。
人は見た目が100%。
見た目が冴えない、若いだけが取り柄の私は、どこかの年寄りの金持ちの後妻とか愛人とか、そんな形で売り飛ばされるのだろうなと思っていたので、放逐処分はとっても有難い判断です。
執事は真っ青な顔で口をパクパクしていましたが、私を高額で売買したい派だったのでしょうか?まあ、別にもう関係がないから良いんだけど。
「今から出て行って頂戴!もう二度と伯爵邸の敷居は跨がせないから!」
母のヒステリックな声と共に、高級家具が取り揃えられた趣味の良いサロンから追い出される事になった私は、生まれて始めて両親に対して感謝の気持ちを抱いたかもしれません。
この時は確かに、両親に対して感謝の気持ちを抱いたのです。
だって、最悪、娼館とか?よくわからないですけど、見かけはどうでも若けりゃいいっていう場所に売り飛ばされることもあるんじゃないかなぁと思っていましたからね。
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